第53話

本の間に挟まっているDVDを引き抜くと、それにも手足が生えていることがわかった。



しかし本とDVDは遠くまで離れることができないようで、2人で1つ、と言った状態だ。



僕が本を読み始めると、DVDは同じ部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。



「少し落ち着いたらどうだ」



せわしなく動き回るDVDを見てカエルがそう言った。



動き回るDVDにテレビの邪魔をされて不満そうな顔をしている。



「いや、だって、ここ、いたら、まずいって」



DVDはそんな風にたどたどしい日本語を使う。



カエルはそれも気に障るようで、DVDがしゃべるたびに顔をしかめた。



どうやら相性が悪いようだ。



「なんでそんなカタコトみたいな話し方なの?」



僕がそう聞くと、DVDは困ったように体全体を使って首を傾げて見せた。



「前から、こんな、感じ。なんでか、わからない」



「本を貸してくれ」



カエルがそう言い、僕の許可も待たずに手から本をひったくった。



気に入らないから捨てられてしまうのかと思いきや、カエルはテレビを見るのを諦めて本に集中しはじめた。



僕は仕方なくテレビに視線を向ける。



けれどDVDがテレビの前を歩き回るのでやっぱり集中して見る事ができない。



僕は仕方なくテレビを消した。



「あのさ、少し落ち着きなよ」



「落ち着くなんて、無理」



「どうして?」



「だって……」



DVDはそう言い、立ち止まって僕の顔をジッと見た。



無言のまま穴が空くほど見つめられた僕は居心地が悪くて、体の体勢を変えた。



「だってお前、匂いするし」



そう言い、DVDは僕に鼻を近づけて嗅ぎ始めた。

「は? 匂い?」



僕は自分の腕を鼻に近づけた。



洗剤の匂いがする。



そして気が付いた。



ミミは僕の匂いを嗅ぎつけてここまで来たと言っていた。



ミミの持ち主は愛菜で、愛菜と僕との接点があったため、ミミにはその匂いをかぎ分ける事ができたのだ。



「もしかして、お前の持ち主は――」



『僕の知り合いなのか?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る