第25話

一度家に戻って来た僕とカエルは少し休憩をして、再び町へ出てきていた。



この町の事をもっとよく知るために、カエルに町案内をしてもらう事になったのだ。



「ここが野菜を売っている店。あっちが服を売っている店」



「ちょっと、待って」



町の中心部まできたとき、本当にそんな看板が次々と出て来たので、僕はカエルを止めた。



「どうした?」



「さっき、物を売買する必要がないって言わなかった?」



「言った」



「あるじゃないか。お店がこんなに沢山も」



カエルが言った野菜屋や服屋以外にも、本屋に雑貨屋に散髪屋と様々な店が立ち並んでいる。



そのどれもが瓦屋根のレトロな建物だという以外に、今の日本と変わらない風景だった。



「こんなのただの暇つぶしだ」



カエルがしれっと言ってのけた。



「暇つぶし?」



「そうだ。ここに来た魂は50年間ここに止まる事になる。毎日毎日ボーっとしてたら暇で暇で仕方ないだろ」



それは確かにそうかもしれない。



50年間何もせずに生き続けるというのは考えただけで拷問のようだ。



「だからこの町の連中は人間の真似事で商売をしてるんだ」



「通貨は?」



「そんなものはない。物々交換だ」



カエルはそう言うと、手の中にある種を見せて来た。



「これは人間に間引かれた果物の種だ。今日はこれと引き換えにおやつを買いに行く」



「おやつもあるの?」



「もちろんだ」



カエルは当然だと言いたげに僕の前を飛び跳ねていく。



その後を追いかけていくと、一軒の駄菓子屋の前にたどり着いた。



木製の看板にマジックのようなもので【本の駄菓子屋】と書かれている。



店先にはひび割れたブルーのベンチと、色あせたスポーツドリンクの看板が置かれている。



「本の駄菓子屋ってなに?」



僕がそう聞いているそばからカエルは駄菓子屋のガラス戸を開けてしまった。



「よぉ、元気か」



カエルが陽気な声を上げながら店へと入って行くので、僕はおずおずとその後に続いた。



店の中はこじんまりとしているが、商品の品ぞろえはすごかった。



竹とんぼなどのオモチャは天井から吊るされ、手作り感のある棚には色とりどりの駄菓子が並べられている。



けれど不思議なとこに、僕が見たことのあるような駄菓子は1つも置かれていなかった。



あるのは大根チップスだとか、ニンジンチップスだとか、大きな袋に入ったお菓子ばかりだ。

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