第21話
目を凝らしても少し先までも確認することができなくて、僕はグッと身を乗り出した。
その時だった。
いつの間にかカエルが蛇をつれて近くまで出て来ていたようで、足音が聞こえて来た。
「あんた。わざわざ私に食べられて来たの?」
白い着物を着たマヤがフフッと不敵な笑みを浮かべて洞窟から出て来た。
その足元にはカエルがいる。
カエルはマヤから離れ、僕の方へ寄って来た。
「そうじゃない。でも……」
僕は次の言葉を探すより先に、マヤへと手を伸ばしていた。
柔らかくてとても冷たいマヤの手を握りしめると、マヤは驚いたように僕を見た。
「何をするの!?」
マヤが僕の手を振り払おうとする。
が、それは全然力が入っていなくて、僕はマヤの手を掴んだままになっていた。
「僕はマヤを助けたくてここまで来たんだ」
「私を助ける? 私は助けられる必要なんてない!」
マヤの声は怒りがこもっているように聞こえたが、僕の手はまだ握られたままだ。
マヤは本気で振りほどく事ができずにいるのだ。
それはマヤの昔の記憶。
人に飼われていた頃の懐かしい、幸せな記憶がそうさせているんじゃないだろうか。
「僕はカエルから聞いたんだ。人と一緒に過ごす時間はとても幸せなものだって。
だけどマヤはそれを失い、捨てられて、ここに来た」
「そうだよ。だから私は人間を憎んでる。お前みたいにこの町に迷い込んだ魂を食べてるのさ」
マヤは僕を見て真っ赤な舌を出して見せた。
その先端は2つに分かれている、蛇の舌だ。
「だけど本当は覚えてるんだろ? 人間と過ごした温もりを」
僕はそう言い、残っている方の手をマヤへ差し出した。
マヤは警戒して後ずさりをしようとするが、僕に手を握られていて動くことができなかった。
僕は伸ばした手でマヤの腰辺りに触れた。
驚くほどに細いその腰を勇気を出して引き寄せる。
マヤの体が僕の目の前に来て、僕は両手でマヤを抱きしめた。
女の人をこんな風に抱きしめるなんて生まれて初めての事で、心臓がうるさいくらい早く打ち始める。
けれど僕はマヤをきつく抱きしめた。
マヤは何も言わない。
マヤの息遣いだけが僕の耳まで届いてくる。
「この温もりを、マヤは覚えてる?」
そう聞くと、マヤが微かに頷くのがわかった。
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