第19話

マヤがこの町に来たのはもう10年も前になるらしい。



新入りのマヤを歓迎した町人だったが、マヤは人に頼ることはなかった。



1人で山の中に籠り、洞窟で暮らすようになったのだ。



そんなマヤを気にして洞窟へ足を運ぶ連中もいたけれど、マヤはそんな人たちをないがしろに扱った。



『助けてほしいなんて言ってない』



『1人でも寂しくはない』



そんな言葉を使い、自分からみんなを遠ざけた。



最初はそんなマヤを見ても不器用な性格をしているのだと思っていた町人たちだが、マヤには別の目論見があった。



それが、山に迷い込んできた人間の魂を食べることだったのだ。



人間に捨てられた悲しみと怒りにまかせて、人間への復讐を決意していたのだ。



「あの女もかわいそうな女だ。人間はあの女を捨てる時に蛇用のゲージに入れたまま山に放り投げたらしい。ゲージの中で身動きの取れないまま、女は野生動物に襲われて死んだんだ」



カエルはそう言い、ため息を吐き出した。



その手にはさっき僕が入れた湯呑が握られ、湯気が立ち上っている。



「マヤは辛い思いをしたんだね」



「そういうことだ」



カエルはお茶をひと口飲んで、その熱さに舌を出した。



「ねぇ、マヤを助けてあげることってできないかな?」



僕は自分の湯呑を両手で握りしめてそう言った。



「……は?」



カエルはべぇーと赤い舌を出したまま僕を見る。



「だってさ、このままじゃマヤはまた人の魂を食べるんだろ? 町の連中もマヤを敬遠したままだし、どうにかしてあげなきゃ」



「どうにかって……。本人の怨みが晴れてちゃんと成仏できないとそれは難しいぞ」



カエルはしかめっ面をしてそう言った。



そして自分の両手で火傷した舌を撫で始めた。



この話は終わりだとでも言いたいのだろう。



だけどそうはさせない。



「僕、今からマヤの所へ行ってみるよ」



そう言い、勢いよく立ち上がった。



「は? おい、ちょっと待て!」



カエルの言葉にも耳を貸さず靴を引っかけて外へ出た。



とてもいい天気で空には雲1つない。



昨日みたいに暗い時間帯でもないし、きっと大丈夫だ。



「待て待て待て待て! だったら俺も一緒に行く!」



家の門を出た所でそんな声が聞こえて来て僕は振り向いた。



カエルが大慌てで追いかけて来るのが見えた。



その姿に僕はほほ笑んだ。



「全く、1人でフラフラするなって言っただろうが」



「ごめん。でも、どうしてもほっとけなくて」

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