第2話 宇宙人に起きた悲劇
宇宙船内は軽くパニックである。現れるはずのないモノが事実目の前にいる。いくら我がアウストラレレント星人が宇宙的に見ても頭がいいとは言え、未知のモノは恐ろしい。
「え?! なんで?!」
生き物だ。黒くて、バタバタと羽を広げて上下に揺さぶり飛ぶ生き物だ。広い船内をバタバタと飛んでいる。
これは……資料で見た。鳥と呼ばれている生き物だ。なんて名前だったか?
――俺は覚えてるぞ、俺!
「カラスだ!」
「あ、そうだ、カラスだ。現地生物と共生している生き物がなんでこの宇宙船の壁を突き抜けて来たんだ?」
「さあ? 訳が分からない」
カラスが自動探査機からの調査票が送られて来る送転機に足を付けて羽を下ろす。物珍しさでカラスを取り囲んで見る。
へえ、漆黒の生き物か。アウストラレレント星には確実にいないな。この星の資料でしか黒なんて見なかったが、これは美しいじゃないか。
カラスがまた羽をバタバタと飛んだ。
「おい! 溶けてるぞ! 送転機が溶けてる!」
「ええ?!」
驚いて送転機を見ると、無残なほどにドロッドロに溶けていく。呆然と見ていると、しばらくしたら熔解は止まり送転機の残骸と呼べそうな物体が残った。
「カラスには物体を溶かす能力があるのか?!」
「この星に触れるだけで物を溶かす生き物なんていないはずだ!」
「カラスは?! どこに行った?!」
なんだ、この物騒な生き物は?! 船内の空気が張り詰める。
「いた!」
カラスは船底に足を付いている。またみるみるうちに宇宙船が溶けていく!
溶けた物体は跡形もなく最後にはフワッと浮き上がるように消える。カラスはいつの間にか船内ではなく、この地の地面に立っている。
「地面だ! 地表が現れたぞ!」
「でも、地表は溶けていない。どういうことだ?!」
「そうか! 相性だ!」
リーダーが大声を出す。
「恐らく、アウストラレレント星の物質とカラスの相性は最悪だ! カラスは溶かすつもりなどない! カラスの意志ではなく、単に物体としての相性が悪いせいで溶けるんだ!」
なんっじゃそりゃ!
俺たちにカラスがぶつかってきたりしたらどうなるんだ?! 恐ろしい!
「やられる前にやれ!」
表の思考が何も判断できていない隙に、裏にいた俺が表に出る。
資料によると、この星の生き物はもろい。蹴りの一発も入れれば砕け散る!
カラスの真上に飛び、あとはこの星の重力に任せれば一瞬でカラスを踏みつけられる。
今は大人しく俺に体を預けてろ! 俺よ!
――待て! カラスに人体が触れたらどうなるんだ?! 俺も一瞬にして消え失せたらどうしてくれる!
「あ!」
そこまで考えが及ばなかった。慌ててバランスを崩してカラスのすぐ横に足を着く。
あっぶねー。
カラスと目が合う。おう、なんか超こえーんだけど。
カラスが大きく羽ばたき、飛び立つ。一瞬羽が足に触れてゾッとしたが、大丈夫そうだ。溶けていくような感覚はない。
「おい! あのカラス錯乱してんじゃねーのか!」
「この劣等生が! いらんことしやがって! マジでいきなり迷惑かけんなよ!」
「危ないぞ! あちこちにぶつかるせいで船が――」
何が起きたのか、まったく分からないうちに、我らの宇宙船はまばゆい光と共に大破した。
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