7-2 呪いさん

 ーー那楽華の湯ーー


 佳奈が泡風呂に入っていると、横にいる女性が突然話しかけてきた。ショートヘヤーで目がくりっとしたチャーミングな人だった。


「こんにちは、私、お客様のお悩み担当、梢女と申します」


 佳奈は一瞬驚いたが、あの広告を思い出し、笑顔で返した。


「お風呂屋さんも競争があるから、色々大変ですね。お風呂で人生相談なんて」


「お客様は何か悩みをお持ちではありませんか?」


 梢女は顔色一つ変えずに尋ねてきた。佳奈も面白そうなので、話してみよう。そんな単純な気持ちで、騒音に悩まされ続けている事を話し始めた。


「私……アパートで一人暮らしなんですけどね。お隣さんがうるさくて、……そのせいで、ニ年で三回も引っ越したんですよ」


「まあ、それは不運続きでしたね。……でも安心してください。私がお客様の悩みを解決してさしあげますから」


 これには軽いノリで話していた佳奈も顔を曇らせた。悩みを聞くだけならまだしも、解決するなんてできるはずがないと思ったのだ。


 疑いを持つ佳奈の気持ちを察してか、梢女は早速、解決策を提示してきた。


「お隣が居なくなれば解決ということで、よろしいでしょうか」


 佳奈は少し驚いて応えた。


「居なくなるとか、何かするつもりですか?物騒なことはやめてくださいよ」


「そんなことはいたしません。いくつかの方法がございますので」


 それを聞いても佳奈の表情はさえなかった。


「もういいですよ。もし今のお隣さんが出ても、また変な人が入って来るかもしれないし……」


「では簡単です。お隣にこれから永久に誰も入らないようにしましょう。それには打って付けの人がいます」


 梢女は、入口の方を向いて、声を張り上げた。


「呪いさーん!」


 入口の方を見た佳奈は、驚きのあまり体を仰け反らせ、お風呂で溺れそうになった。


 そこには死装束を着た幽霊が立っていたのだ。長い髪、腫れた左瞼、痩せこけた体、そしてテレビのドッキリなどとは違うのは、体が透けていたことだった。特に膝より下は透けてはっきりと見えなかったのだ。

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