3-2 一人

「あーあったあった!ほら、あれが……」


 地図にあるタバコ屋を指差し、後ろを振り向く純子だったが、今までいたはずの健治がそこには居なかった。


「もうー!」


 純子はカバンから携帯を取り出し、健治に電話した。


「どうしたの?」


「いやあ、ちょっとよそ見したら、おまえを見失っちゃって」


 健治ののんびりした声にイライラしながら、純子は那楽華への行き方を説明した。


「あー、分かったよ。後から行くから……。先に行っておいてくれよ」


「言われなくてもそうします!」


 タバコ屋を左に曲がった純子の前には、すでに那楽華の湯が見えていた。




 久しぶりに温泉施設に来た純子は、暖簾をくぐりながら、心踊らせていた。


「どうせお風呂は別々だから、お父さん待たずに入っちゃいましょ」


 純子は「先に入ります」とメールを送ってから、すぐに浴室へ向かった。



(やっぱり大きなお風呂はくつろげるわね。こんなに近いならまた来ましょ)


 純子がゆったりと肩まで浸かっていると、すぐ横に、自分と似たようなおばちゃん体型の女性が入ってきた。


(なに!この人……こんなに広いのに……真横に入ってこなくていいのに……)

 そんな純子の気持ちを察するように、その女性は純子から少し距離をとった。


「あっごめんなさい。近すぎでしたね」

 

(えっ?私……表情に出てたのかしら……)

 あまりにタイミングよく反応した女性に気まずさを覚えつつ、純子は軽く会釈した。

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