2-10 慰めと怒り

 集中治療室の前には丈瑠の母親と父親がいた。


「成美さんね」


 母親は弱々しく立ち上がり、成美を迎えた。


「部屋へは入れないの。お医者さんは、最悪のことも考えておいてくださいと言われたわ」


 成美はかける言葉もなかった。慰めの言葉でも言えると良かったのだろうが、とてもそんな余裕はなかった。なぜなら今一番慰めて欲しいのは、成美自身だったからだ。


 成美が立ちすくんでいると、横にいた警察官2人が近づいてきた。


「市之瀬成美さんですね。ちょっとお話を聞かせていただけますか?」


 警察官からは昨晩からのことを聞かれた。自分が疑われているの?と感じることもあったが、全て正直に答えた。


「最後にこちらを見てもらえますか。監視カメラに映っていたものです」


 歩道を歩く丈瑠に1人の男がぶつかるシーンが映し出された。その後丈瑠は自動車に跳ねられたのだという。


 成美は絶句した。その男はブン太だったからだ。


「この男に見覚えはありませんか?」


 ブン太の顔が画面に拡大された。


 成美は首を振り立ち上がった。


「もう帰ります」


 成美の手は怒りで震えていた。

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