2-9 幸せな刻

 ホテルキャッスル最上階のレストランは、大きな窓から都市の夜景が見渡せるフレンチレストランだった。


 エレベーターを降りると、入り口手前で丈瑠が手を振ってきた。丈瑠は駆け寄った成美の肩に手をかけ、予約席までエスコートした。


 席に着き、食事が出されると、2人は乾杯した。


「おめでとう、成美」


 丈瑠はそういうと、カバンからリングケースを取り出した。


「成美、ずいぶん待たせたけど、俺と結婚しよう」


 成美の目から自然と涙があふれてきた。


「うん、うん……ありがとう」


 丈瑠はケースから取り出した指輪を成美の指にはめた。2人は至福の刻を過ごし、これからのことを誓い合った。



 次の日の朝、家に帰るとブン太は戻っていた。


「ほら、やっぱり」


 成美はブン太の寝ているベットで横になって寝た。



 午後2時、成美が目を覚まし、スマホを見ると、大量の着信履歴が残っていた。登録していない人物からだったが、気になってかけ直した。


「成美さん?」


「はい、……どちら様でしょうか」


 丈瑠の母親だった。母親はか細い声で伝えた。


「今朝、丈瑠が事故にあって……今、集中治療室にいるんです。来てもらえないかしら」


 成美は手が震え、真っ青になった。しばらくは動けなかったが、その後は居ても立っても居られなくなり、母親から聞いた病院へ直行した。

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