3 問題児
校長室にて。
書類に拇印を押し、俺は正規に教師となった。
少女改め、フリーダ校長は優雅に紅茶を飲んでいる。
「そう言えば、あなたの髪の毛はどうして黒いのかしら?」
「え、生まれつきですけど」
「生まれつき! それは興味深いわね。街とかで嫌な目されないの?」
「あぁ、言われてみれば、されてますね」
髪とそれになんの関係があるのだろうか。
そう言えば、まだこの世界で黒髪を見ていないな。
だから俺は異端者みたいな扱いをされたってことか?
「やっぱりね。知ってると思うけど、黒髪はタブーよ」
「え、なんで?」
「そりゃあの英雄様と同じだからじゃない。英雄様に失礼でしょ」
そんなこと知ってるわけないじゃんかよ!
誰だよ、あの英雄様って。
だから俺は英雄って呼ばれたのか。
話を聞くと、なんでも英雄とやらはこの世界では珍しく黒髪だったそうだ。
それからというもの、英雄と同じ髪色にするのは不敬だと、タブーになったらしい。
俺の世界でもあったな。某有名サッカー選手と子供を同じ名前にしてはいけないみたいなのが。
それに近しい感じか。
染めたくはないなぁ。親父に髪を染めるとにハゲるって言われたし……
「ま、それは置いといて、明日からこの教室の担任になってもらうから。これ、名簿」
「わかりま……明日!?」
「え、問題あった?」
いやいや、いきなり過ぎるでしょ!
明日が新学期ってこと!?
まだ、心の準備とかができていないんだけど!
まぁ、校長に言われたら嫌でもやらなきゃいけない立場なんだけどさ。
「それでフリーダ校長。どんな学級なんですか?」
「フリーダでいいわ、年齢も近そうだし。あなたに任せるのは特待生10人から成る学級よ」
「と、特待生!?」
「そ、特待生」
なんかこの人には振り回されまくってる気がする。
で、特待生だって? 俺この世界に来て二日目なんだけど……
絶対生徒の方が優秀じゃんかよ。
やっぱり教師になるってのは間違えだったかもしれない。
「うーん。問題児ばっかだけど良い子達ばっかよ、多分」
問題児か良い子かどっちなんだ。
最後の多分で俺の不安は募るばかりだ。
「まぁ、このクラスの担任になった人が五人も辞めてるからね。四日前にまた一人辞めちゃって……そこであなたに出会ったってわけ」
えぇ……100%問題児じゃん……
五人辞めるって相当だろ。じゃあ別に新学期ってわけじゃないのか。
てか、人手不足ってそう言うことだったのか。
学校内に適任はいなかったのか?
「まぁ会ってみてからのお楽しみよ。まぁ生徒達はあなたと歳も近いだろうから、すぐに仲良くなれるわよ」
「お楽しみって……」
「じゃあ私はやることあるから。あなたの寮と部屋はここね」
そうして地図だけ渡された俺は校長室を出た。
部屋って言われても俺は家具とか何も持っていないからなぁ……
取り敢えず街に出ることに。
相変わらず周りの目は痛いけど、違う文化に触れるのは心躍る。
いやぁ日本との違いに驚きが止まらない。
……って、もう日が暮れてんじゃん!
楽しすぎて気がつかなかった。
街の奥まで来ちゃってるからなぁ。戻るのに時間がかかる。
仕方がないから泊まっていくか……
街の宿に泊まって翌日。
因みに宿屋の店主は驚くほど優しくて、泣きそうになった。
いよいよ生徒との顔合わせの時間だ。
俺は教室の扉の前で、うるさい胸を押さえて立っている。
ゴーン、ゴーン
ふぅ、よし、行くか!
意を決して教室の扉を開く。
「おはよう!今日からこのクラスの担任を務めるシグレだ。よろしく!」
緊張を押し殺して、精一杯の明るい声を出す。
が、教室は静寂が支配している。
「先生、よろしくお願いします」
唯一人、金髪の好青年が挨拶を返してくれる。
他は全員無視だ。
一人においては爆睡しているし……
「と、取り敢えず授業をしようか」
昨日教科書を見せてもらったが、理科は俺でも教えられそうだった。
街を見る限り、魔法に頼った生活をしているみたいだからな。理科が必要とされなかったんだろう。
内容としては中学生レベルだった。
「じ、じゃあこの問題解ける人ー。じゃあ君!」
俺は黒板に問題を書いて、青い髪をした少年を指す。
……そうして冒頭に戻るわけだ。
ゴーン、ゴーン
はぁ、なんとか授業が終了した。
結局、俺に対応してくれたのはあの金髪君だけだった。
なんだか気分が落ち込むなぁ……
教室を出て扉を閉める。
そうすると、教室から僅かに生徒の声が聞こえてきた。
「コイツは何日耐えられるだろうな」
「すぐに辞めますよ。どうせ私達よりも劣っているのですから」
こりゃ教師が次々と辞めていくわけだ。
気づけば俺は涙を流しながら走り去っていた。
それから小一時間。
目を腫らした俺は、徐に校長室に足を運んだ。
「お疲れ様。どうだった?」
「どうもこうも……」
「ダメかぁ。あの子達は自分より劣っている人を相手にしないからね。あなた強いから大丈夫だと思ったんだけど」
強いからって言われてもね。士官を目指す生徒達より、平和な日本でのほほんと生きていた俺が強いなんてないだろ。まだ実力はわからないし。
「私から誘っといて言うのもあれだけど、辞める?」
「えぇ、辞め……」
辞めると言おうとした瞬間、金髪の青年の顔が脳裏に浮かぶ。
俺を先生と呼んでくれる生徒が一人でもいるんだ。
ここで辞めたら彼に失礼じゃないか。
「いや、辞めません。きっと生徒達を立派な士官にして見せます」
「あら、頼もしいわね。目の下は腫れているみたいだけど」
「あ、ちょっ……」
フリーダが悪戯っぽく笑う。
よし、まずは金髪青年に近づくところから始めよう。
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