第5話 郵政通信省入構

 認証ゲートが開き、公用車は再びゆっくりと動き出す。


「こんな大人ばかりのところじゃ、桃佳ももかちゃんも退屈するだろうからぁ。午後は、道場に行こう。ねっ?」

「道場ですか?」

 思わず桃佳ももかは聞き返した。役人さんの仕事場にふさわしくない気がする。

「そう、道場、あるよの。そこで彼氏にしたい系の桃佳ちゃんに、彼女にしたい系女子を紹介してあげるわ」

と、伊能いのうは続けた。


 怪訝けげんな表情となった桃佳ももかに向け、伊能いのうは、

「そう、とっておきの異能者彼女、ムツムツね。桃佳ちゃんと、異能者なかまの。ぁ、私も名字はイノウかぁ」

と、用意しておいたような得意気な表情を作る。


 公用車が停車した。伊能いのうはさっとドアを開け車外に出ると、後部座席側のドアまで回り込みドアも開け、

「さっ、行こっか」

桃佳ももかにまっすぐに手を差し出した。どちらかというと小柄な伊能いのうの手は、思ったよりも大きく力強そうだった。桃佳ももかがその手を握り返す。力が入った手に合わせ、桃佳ももかはフッと腰を上げ、そのまま外に出る。

その間に運転手が桃佳の荷物を積み出してくれている。


 桃佳が荷物に向けた視線の先から、制服姿の背の高い男性が早足で歩んでくる。


 運転手を間に挟み、立ち止まった男性は、

仲本なかもと三等尉であります」

と言い、敬礼をした。


 伊能いのうは、

「お疲れ様。伊能いのう二等尉です」

と軽く答礼した。そして、桃佳の方を向くと、

「お荷物、いったんお預かりしていいわよね」

と言った。確かに、メッセージには、夜まで手荷物は預かります的なことが書かれていた気がする。


 伊能いのうよりも若そうな男性隊員に、着替えも入ったバックを預けることは少し恥ずかしい気をしてしまわないでもなかったが、決まりなのだろうと思い、伊能いのうの方に向かい、

「はい」と頷いた。

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