第8話「召喚」
「お前は!」
「……話は後にしましょう、それよりも革命軍が大変よ、さぁ早くこの薬を飲んで」
アリシアはそう言うと、力を使い果たし横たわっている僕に小さなガラス瓶の中でエメラルドに輝く謎の液体を手渡してきた。
この液体は恐らくポーションの類だろうか?
でも何故、敵であるアリシアが……いや今、その事を考えるのはよそう。
「……わざわざボクを助けた後に毒を盛るとも考え難い、そもそもロクに動けないボクに選択肢は無いか……ありがたく頂くよ」
ボクはアリシアから受け取った液体を一気に飲み干すと同時に体に活力が沸き上がる。
「うおお、回復薬って初めて飲んだけどすごい効き目だ!!」
「精力剤だけどね……」
「ん?」
「いいえ何も、もう立てるはずよ、二つの意味で」
何か聞こえた気がするが空耳だろうか?
ボクは急いで起き上がる。
そういや彼女は革命軍が大変だと言ってたな。
「それで、革命軍が大変って、一体どういう事なの?」
「あそこを見てみなさい」
そう言うとアリシアは建物の端まで歩いていき、その下から見える場所を指差した。
そこから見えたのは、半円状の銀色の壁が何かを取り囲むかのように、ゆっくりと縮小するように動いている様子であった。
「あれは?」
「恐らくは武装したゴブリン部隊が革命軍を包囲しようとしているって所でしょうね……完全に誘い込まれたわね」
「なんだって!!」
革命軍には半ば無理矢理アラクネロードとの対決を押し付けられたりもしたけど……一宿一飯の恩義もあるし、そんな状況放っておけない、早く助けに行かないと!!
だってボクはゴブリンが女性をメチャクチャにする話が大嫌いだからな!!
「待ちなさい! 貴方が今からあそこに向かった所で、とてもじゃないけど間に合わないわ!!」
アリシアはこの場から大急ぎで離れようとしたボクを引き留める。
「そんな事、やってみないと分からないだろ!!」
一分一秒を争うこんな状況にも関わらず、至って冷静なアリシアに対してボクは声を荒げて叫ぶ。
「いい?落ち着いて聞いて、私に良い考えがあるわ、救出成功確率を無策の今の1%から50%にするとっておきの方法が」
はやる気持ちが抑え切れず、昂奮しきっているボクを落ち着かせるような口調でアリシアがそう告げた。
「了解、話を聞くよ、出来るだけ早く頼むよ」
彼女の言葉に少しだけ冷静さを取り戻したボクはそう答えると彼女の口からとんでもない一言が飛び出してきた。
「……貴方の【聖液】で召喚を行います」
「召喚ッッ!?てか聖液!!!!!!!!」
一方最前線では革命軍が奮闘を続けていた。
「団長!いつの間にかゴブリン部隊が側面や背後にも、このままでは包囲されてしまいます!!」
エルフの戦士の一人が悲鳴のような声色でユウカに状況報告する。
「そうか、お前は出来る限り後方を注視しておけ」
「りょ、了解です」
「……勝負を急ぐには我らが敵陣深く切り込む必要があるからな、想定内だ」
強引な正面突破戦で既にエルフ部隊の3割が死傷し、戦場には死屍累々が広がる。
周囲は包囲の進む危険な状態。
一見絶望的にも見えるこの状況にも関わらず、革命軍団長ユウカの眼は決して死んではいなかった。
「みんな聞け!正面突破まで、もうひと踏ん張りだ!」
ゴブリン・エリートとはいえ所詮はゴブリン。
却って変に頭がいいからこそ、徹底された命令順守に隊列維持、ある意味その行動パターンはただのゴブリンよりも読み易い。
実際に敵陣正面は革命軍の攻勢に押され崩壊寸前に追い込まれており、敵包囲部隊の大多数が急いでその穴埋めに回されている状態になっている。
こちらが攻撃の手を止めない限り包囲は無い、ユウカはそう確信していた。
だからこそ革命軍には味方の屍を踏み越えてなお、戦い続ける厳しい命令を心を鬼にして下し続ける。
「……絶対に突破する、散っていった者達の為にも、この戦負けるわけにはいかない!」
ユウカは溢れ出る情動を噛みしめ、静かな声で口ずさみ、一匹また一匹とゴブリンに弓を射る。
「――残念ながら貴方の武器は近接武器である以上、いくら強かろうとあそこにいる数百の敵をいっぺんに片づける事は不可能よ、ましてやこの場所からあの戦場まではどんなに急いでも30分弱はかかるわ」
その30分という時間はアリシアの口ぶりから察するに戦場の決着がとうについている時間という事なのだろう。
「待って移動時間の問題なら、転移魔法を使えば!」
すっかり忘れていた、ボクがここに連れてこられた時の様に転移魔法使えば移動の問題は解決するはずだ。
「残念ね、転移魔法は発動自体は簡単だけど、術式を構築するのに通常数日はかかるわ」
「なッ!?」
なるほど、流石にゲームみたいに好きな所にポンポンとワープって訳にはいかないのか。
「移動は遅い、転移は出来ない、そこで召喚ってわけ、頑強な甲虫族であるアラクネロードをバリアごと焼き払った貴方のあの巨大なエネルギーを利用した召喚を行うの」
アリシアはいつの間にか描かれていた魔方陣を指差し、得意げな表情でこちらを見る。
「もしかして召喚印? いつの間に、だけど本当に上手くいくの?」
「それはやってみないと分からないわ召喚された魔物次第ね、でもそうね貴方のその力を使えば恐らくドラゴンを呼び出す事だって可能よ」
ボクはごくりと生唾を飲み込む。
己の力でドラゴンを召喚し革命軍を救う。
間に合うかどうかも分からない戦場に走って駆けつけるよりも、このロマンに全てを賭けろという甘言がすでに頭から離れなくなっている。
「召喚される魔物は術者の願いを受け継ぐ【みんなを救いたい】と強く願いなさい、きっと力になってくれるわ」
アリシアはさっき無策の1%を50%にすると言った。
つまりはこの召喚の成功確率は少なくとも50%あるという事だ、確かに悪い賭けではない。
「……やってみるよ」
「オーケー、準備が出来たら魔方陣に向かって聖液を放出すればいいわ」
ボクはズボンのジッパーを下ろしロンギヌスを起動する。
それを見届けたアリシアは集中の邪魔にならぬようその場から離れる。
正義の心に呼応したロンギヌスは今まで見た事の無い程の長さに進化する。
「なんだこれは!! 力がみなぎる!!今なら!!うおおおおおおおおおおおお!!」
神速の手技を用いて数秒でロンギヌス神槍形態をバスターモードへ変更。
「みんなに届けええええええええエクスペリエンス・セイクリッド・ディバインブラスター!!!」
ボクの放ったエクスペリエンス・セイクリッド・ディバインブラスターは召喚魔方陣の内部へと吸い込まれるように消えていく。
カレンさん、ユウカさんに革命軍のエルフのみんな……絶対に助けるよ!!
チチンチンチンチチチチチン yyk @yyk__
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。チチンチンチンチチチチチンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます