風鳴り

作者 辰井圭斗

24

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★★★ Excellent!!!


 以前知り合いから「人間は、完璧すぎるひとを尊敬することはできなくて、不完全な、できないながらもどうにかやり遂げる、そんなひとをこそ愛情をもって尊敬する」という話を聞いたことがあります。

 パクさんも、向坂さんも、高校生だった頃から1000日も経っていないようなひとたちですし、大人と言って差し支えないような年齢の、中川さんや本条さんでさえ、まるで子供みたいなやり方で戦っています。

 この作品において、彼らは「強大な大人」でも「格好いい敵役」でもありません。議場の外では共に寮生活を送る存在でしかない、というそのままの意味ではなく、例え敵対する立場になったとしても「優しい先輩」として、慕うべき存在としてここにいます。

「そんなひとたちがどうして」と苦しみながら、玲さんも戦いに身を投じるわけですが、読んでいる私たちまで、彼女たちを案じて、苦しくなってしまうような、そんな作品です。

 そして、物語が終わったこれから先も、彼女はここで暮らしていくことになるでしょう。ここで暮らすかぎり、退いても、進んでも、彼女の見知ったひとたちがそこにいるのですから、彼女はこの寮を好きなままでいつづけるでしょう。

 美しい構成の、一つの事件を取り扱った作品ですが、物語の外を感じさせる余韻もあります。なにより素敵なのが、たくさんの登場人物を好きになれる、ということです。作者様の力量に感嘆するばかりです。

 一文一文に神経が払われており、読者に情報を与えるのもさりげなく、文章のリズムが崩れないように組み込まれており、この確かさがあるからこそ、読み手は人物や美しい風景の描写などの魅力を存分に感じられるのだろうな、と思いました。ここまでの技術と努力をもって四万字も書くのは、並大抵なことではないでしょう。

 書き方の随所に作者様の心遣いが感じられるような作品で、キーワードに「万人向け」とあるよ… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

大人に近づくにつれ、嫌でも思い知らされることは、少なくないでしょう。

「議論など時間の無駄」
「結局は強者・多数者の意見が通る」
「意見が致命的に食い違った者同士は、どうやっても歩み寄れない」

本作では大学1回生の主人公の、1年間の寮生活の風景が描かれます。その中で出会った愛すべき先輩達がどうしようもなく溝を深めていく様を目の当たりにして、人間と人間とのあいだに起こるどうしようもなく残酷な現実に気づいてゆく――
その姿が傷ましくもあり、美しくもあり。ふと、この世の不条理に慣れ切ってしまった(というよりかは、見て見ぬふりをするようになってしまった)浅ましい自分に軽く羞恥を覚える心地がするようでした。

若さゆえの、純粋な年長者に対する憧憬や、内面の葛藤といった繊細な機微が、とある京都の情緒あふれる風景とほどよく溶け合った、佳き作品です。

★★★ Excellent!!!

 大学学生寮の自治を中心に巡る、人々の心を描いた作品。
 政治的なサスペンスエンタメ小説のような、どんでん返しやあっと驚くテクニカルな手段は扱われません。
 彼らの議論は、それぞれの主張を真芯に据えて語られるために、あおいです。若く拙くも見えます。でも、そのために一層、本気であることが伝わってきます。
 政治や巨額なマネーが動くわけではありません。だから話のスケールは小さいでしょう。けれど、彼らにとって、それは小さいや大きいと測られる対象ですらない。一等だいじな議論なのです。みなが本気で寮を、人を大事に思うからこそ、抱いた思想だったと思います。
 僕も昔、友人や先輩と語った部活動に対する議論を思い出しました。
 これを読んでよかったと、素直に言えます。

★★★ Excellent!!!

──戦うって、一体誰が誰と……?

上記は『第6話 「打倒独裁」』より抜き出した主人公・冬樹玲の独白だが、成程確かに終始「一体何と戦っているんだ」と云いたくなる話ではある。本作を読了後、モデルとされたであろう自治寮についてざっくり調べてみたのだが、本音を云えばやはり「一体何と戦っているんだ」に尽きる。

ざっくりではなく詳しく調べれば変わるものもあるとは思うのだけれど、こういったとき大事なのは理解することではなく、理解しようとする姿勢を示すことだと思うので。むしろ、これくらいの理解度で丁度良いのでは──などと考えている。

先人のレビューに散見される通り、寮生たちの議論は如何せん“若く”見られがちなのだけれど、はたして本当にそうなのかという疑問もあり。というのも、私の経験則という極めて狭い認識からの物云いで恐縮なのだが、年齢的に「大人」と自認せざるを得ない人たちでも案外──どころか往々にしてこういう“戦い”を展開している気がする。

少なくとも私は、外野から見てちらと「若い」と思ったことは事実なのだけれど、だからといってこれに「若い」と烙印を押して自身から切り離せるほど出来た大人でもないのだよなぁ──と。玲は「大人になりたい」と云うけれど、そういえば自分が「大人になりたい」と思わなくなったのはいつからだろう、然して大人になった実感もないくせ、一体いつから大人になった気でいたのだろうとか、ふとそういったことに思いを巡らす。

人と人は対話と議論によって分かり合うことはできない──という現実に対して思うのは、それでも分かり合えた先に幸せがあるとは確約されていないよねということで。私は──その渦中にいない人間だからこそそう云えるのだと承知の上で云うけど、どうしようもなく分かり合えなかった無軌道な過去にも「美しさ」を見出す余地はあるのではないかという気がする。

いや、云うて調和… 続きを読む