風鳴り

作者 辰井圭斗

一陣のうねりが割れて

  • ★★★ Excellent!!!

──戦うって、一体誰が誰と……?

上記は『第6話 「打倒独裁」』より抜き出した主人公・冬樹玲の独白だが、成程確かに終始「一体何と戦っているんだ」と云いたくなる話ではある。本作を読了後、モデルとされたであろう自治寮についてざっくり調べてみたのだが、本音を云えばやはり「一体何と戦っているんだ」に尽きる。

ざっくりではなく詳しく調べれば変わるものもあるとは思うのだけれど、こういったとき大事なのは理解することではなく、理解しようとする姿勢を示すことだと思うので。むしろ、これくらいの理解度で丁度良いのでは──などと考えている。

先人のレビューに散見される通り、寮生たちの議論は如何せん“若く”見られがちなのだけれど、はたして本当にそうなのかという疑問もあり。というのも、私の経験則という極めて狭い認識からの物云いで恐縮なのだが、年齢的に「大人」と自認せざるを得ない人たちでも案外──どころか往々にしてこういう“戦い”を展開している気がする。

少なくとも私は、外野から見てちらと「若い」と思ったことは事実なのだけれど、だからといってこれに「若い」と烙印を押して自身から切り離せるほど出来た大人でもないのだよなぁ──と。玲は「大人になりたい」と云うけれど、そういえば自分が「大人になりたい」と思わなくなったのはいつからだろう、然して大人になった実感もないくせ、一体いつから大人になった気でいたのだろうとか、ふとそういったことに思いを巡らす。

人と人は対話と議論によって分かり合うことはできない──という現実に対して思うのは、それでも分かり合えた先に幸せがあるとは確約されていないよねということで。私は──その渦中にいない人間だからこそそう云えるのだと承知の上で云うけど、どうしようもなく分かり合えなかった無軌道な過去にも「美しさ」を見出す余地はあるのではないかという気がする。

いや、云うて調和保たれている方がキレイじゃね? という正論パンチはまあごもっともとして(笑)一色の虹よりか七色の虹の方がやはり眺めていて、魅入ってしまうものはあるわけで。「分かる~」というレスポンスもときには誰かを傷付けるじゃないですか。内容によっては「まあ分かる気がする」くらいの方が当たりが丁度良かったり。人は共感されると嬉しい一方、同感されるとときにモヤッとする生き物だったりする。

だから、私自身は現状の人の分かり合える度(とでも云えば良いのでしょうか)をそこまで悲観的には捉えていなくて。流石にもうちょっと高くても良くね? と思う瞬間も多々あるにせよ、それでも──この分かり合えないところにも何かしらの趣を見出せる人ではありたいよねと思ってしまう。

──どうしても記憶の中のそれにそういうものを見出してしまいます。

「〇割フィクション」系は、それが“作品”だとわかっていても何やら他人様の過去に判を捺すような感覚から、感想を述べるに抵抗があるのだけれど、強いて云えることがあるとするなら私はこれを読めて良かった思うし、作者はこれを書いて良かったと思う。書き手と読み手の分かり合える度も個人差はあれたかが知れているでしょうが、百を読み取れないからこそ生まれ落ちたものに価値を見出せる人ではありたいのだ。

だから、「読めて良かった」も「書いて良かった」も飾らず言葉にしていいのだと思う。

私と云う一読者にできる「肯定」があるとすれば、きっとこれくらいなのでしょうて。

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