風鳴り

作者 辰井圭斗

愛するべき寮生の方々

  • ★★★ Excellent!!!


 以前知り合いから「人間は、完璧すぎるひとを尊敬することはできなくて、不完全な、できないながらもどうにかやり遂げる、そんなひとをこそ愛情をもって尊敬する」という話を聞いたことがあります。

 パクさんも、向坂さんも、高校生だった頃から1000日も経っていないようなひとたちですし、大人と言って差し支えないような年齢の、中川さんや本条さんでさえ、まるで子供みたいなやり方で戦っています。

 この作品において、彼らは「強大な大人」でも「格好いい敵役」でもありません。議場の外では共に寮生活を送る存在でしかない、というそのままの意味ではなく、例え敵対する立場になったとしても「優しい先輩」として、慕うべき存在としてここにいます。

「そんなひとたちがどうして」と苦しみながら、玲さんも戦いに身を投じるわけですが、読んでいる私たちまで、彼女たちを案じて、苦しくなってしまうような、そんな作品です。

 そして、物語が終わったこれから先も、彼女はここで暮らしていくことになるでしょう。ここで暮らすかぎり、退いても、進んでも、彼女の見知ったひとたちがそこにいるのですから、彼女はこの寮を好きなままでいつづけるでしょう。

 美しい構成の、一つの事件を取り扱った作品ですが、物語の外を感じさせる余韻もあります。なにより素敵なのが、たくさんの登場人物を好きになれる、ということです。作者様の力量に感嘆するばかりです。

 一文一文に神経が払われており、読者に情報を与えるのもさりげなく、文章のリズムが崩れないように組み込まれており、この確かさがあるからこそ、読み手は人物や美しい風景の描写などの魅力を存分に感じられるのだろうな、と思いました。ここまでの技術と努力をもって四万字も書くのは、並大抵なことではないでしょう。

 書き方の随所に作者様の心遣いが感じられるような作品で、キーワードに「万人向け」とあるように、あまり読んだことのないひとでも、ちゃんと楽しむことができるのではないでしょうか。

 この作品を読まれる際は、作者様が仰るように、縦書きで読むのがいいと思います。カクヨムさんは投稿された小説がちゃんと映えるようなデザインをされたサイトさんなので、最良の状態で読むのをオススメします。
「ぁあ」と書かれている「ビューワー設定」を押してから縦組みを選び、「iii」と書かれている「目次」を押し、被さっている目次をひっこめると縦書きで読めますので、ぜひ。

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