第62話 遠い場所 悪意は撒かれ




 第四侵源地、ラザーニ国ドドレでの戦いのあと。

 トットール男爵領でしばらく休ませてもらっていた俺たちだったが、一週間しない内に急遽きゅうきょの呼び出しが掛かった。


 剣星様からの伝言で『準備が整った』というコトなのだが…… 意味は分からなかった。



「よく集まってくれた」


「剣星様が集められたんですけどね」


「ヘルート、そんなツッコミはいらん。タズマ殿。こちらに」


「あ、はい」



 お馴染みとなった王城第三談話室。

 会議室兼食堂として使われているそこに、俺たちと、見慣れぬ魔法使いらしき青年たちが集められた。



「現在の『癒し手の空船そらふね』作戦は、このタズマ殿の魔力と称号と発想力によって成功をおさめている」



 俺の提案に、そんな恥ずかしい名前が付いていたんすか。

 俺、恥ずかしくてもうお外歩けない。



「ただ、戦うだけの力を運ぶなら、この発想を利用した別の方法を考えてもいいだろう。然るに、君たちには現行を越える作戦を練ってもらいたい」



 おおう、そうなれば俺はお役御免、我が家の領土防衛に全力を注げるし、普段はもっと勉強しておくコトすら。



「頑張ります」


「うむ、よろしく頼む。そして、彼らは君の称号を受け継ぎたいという希望者たちだ」


「はあ、『伝承・継承の儀』ですね?」


「そうだ。何せタズマ殿の大空の翼スクランダーは長年持ち主が無かった。どうか称号の習得方法を教えてはいただけないか?」


「あ、それなら浮遊飛行ホバーフライトを一定距離、荷物か人を運びながら使って尚且つ疲れないこと、です」


「なんだと?」


浮遊飛行ホバーフライトを一定距離、荷物か人を運びながら使って尚且つ疲れないこと、です」


「具体的に、荷物の大きさと、距離的には……?」


「ええと、ゴプトからアーマトへと、半分くらいは自分と同じくらいの荷物を背負ってました」



 誰かに引き継げるならありがたい。

 そんな恥ずかしい作戦は早く卒業させて欲しい。



 だが、称号の伝承はできたが、継承の儀には誰も至れなかった。



「解せぬ」


「いや、そりゃあムリじゃよ…… 疲れないことって地力が途轍もなく必要なんじゃから」




 ☆




 さて、では別の方法で戦力の輸送、か。

 ただ単に『輸送』と考えてもいいか。



「あの、浮遊飛行ホバーフライトには範囲や効果時間の規制部分が少なかったからこんなアレンジを思い付いたのですか?」


「そんなに回復が早いのは、なにかコツなどありますか?」


「ジンクスは大事にするほうですか?」


「飛行の補助的魔法の構築は可能でしょうか?」


「サインください」


「待て待て待て、タズマ殿に詰め寄るな」



 何故か青年魔法使いたちからの質問責めに。

 あと何でジンクス。

 何でサイン。



「今は討論を求めておるのだ」



 それはそうだ。

 ふむ。

 つってもなぁ、俺のやってきたコレも、ひらめきだったし。



飛翔フライを二人で使って、干渉しないようにロープ伸ばして、剣星様を持ち上げる、とか」


「儂ゃあハイジじゃないが」


「?」


「うむ、何でもない。続けてくれ」



 剣星様が涙ぐんでいましたが、とりあえず青年魔法使いたちと会話していこう。


 ――・あくまで魔法は動きを補足する程度に留めて、自力で走らせる。


 ――・頑張って抱えて運ぶ。


 ――・以前と同じく馬車での移動、また乗り継ぎ。



「儂のコトは一先ず置いておくとして、こう出た意見を見ていると、魔法使いは発想力がゴリ押し傾向であるなぁ」


「そうですねぇ(棒)。あの、こういう時こそ、賢者様の出番だと思うのですが…… まだ起きて来られないのですか?」



 大魔法使いであり、知識の宝庫―― 大樹の里の『隠者様』は、主義として『専守防衛』を掲げているらしく、一度は会ってみたいと思っていたがまだそれは叶っていない。



「信念として~とかはぐらかしておるが、あのババアはただ自分の図書館を守れればそれでいいんじゃ。今回も様子見の姿勢をとるじゃろうなぁ」


「そうですか……」



 結局、今回の『討論』ではいい結果は出せなかったので。

 集まってくれた青年魔法使いたちを『鍛える』方向にチェンジ。

 元々、飛翔系魔法の使える彼らを集めたのはそのためだ。




 ☆




「地味にキツイ」


「地味にツラい……」



 王城西の草原で、空中浮遊の維持に青年たちが悲鳴上げるが、キヨは涼しい顔で追加の課題を提示する。



「まだ半刻ぅ。もうダメなん? その程度でタズマはんの後釜狙うたぁ、考えがあまちゃん過ぎやしまへんか。さあ、次は浮遊飛行ホバーフライトで、椅子ごと身体を浮かせておくんなんし」


「や、休みなし?」


「タズマはんなら余裕綽々ですよ?」


「えっと、キヨ、本当にもう少し手加減してもらえるとありがたい」


「タズマはんが言いはるんなら、じゃあそっちの『板ごと』身体を浮かせておくんなんし」



 ちなみに、俺もキヨも見本として飛翔フライをしている。


 本当に、この青年たちで大丈夫だろうか。



「ご自分の姿をお忘れなく」



 シーヴァに言われて、そうだった俺、まだ子供だと反省する。

 まあこの男四人、女二人を鍛えて、俺の代わりに剣星様傍付きの移動要員にして見せる、なんて言ってもいないし。



「気長に、とはいかないけど、皆さん才能(適性)があるし。頑張りましょう」


「そぅですね、才能(適性)はあるんやろね。気張ってもらわんと」



 そう言われて、何人かの魔法使いは顔色を変えて集中し、何人かは落ち込んだ。


 時間が無いこと、期待されていること、認められていること―― それら様々に感じているのだろうか?

 本当は、楽しみながら学ぶほうがいいんだけどな。


 名乗りを上げ参加したという六人に、俺はもう一度感謝をした。



 くれぐれも無理はしないでくれよな……。




 ☆




 そうして三週間、訓練していた内の五人はメキメキと上達し、俺が提案した『背負子しょいこ』で剣星様を運ぶという方法でならば馬車よりも早く飛べるところまで来た。


 特に一人、ラッギーという女魔法使いは小型船ボートまではいかないが、絨毯じゅうたんサイズならば浮かせて三人まで運べる程になった。



「カウツ・ラッギーちゃんか。中々頼もしいのう」


「いえ、水平軸に不安もありますし、まだまだ航続距離が」


「専門用語混ぜないで、分からないから」



 彼女も転生者だ。

 というか、集められた魔法使いたちは皆、何かしらの恩恵ギフトを持っている。


 特に転生者である彼女は『経験則の理』というスキルを持ち、通常よりも訓練や練習で得られる学習効率が良いというもの。


 とてもうらやましい。



「はっ、申し訳ありません。自分、軍務経験があるもので」



 どこの国のかは分からなかったが、なんか、そうらしい。

 でもこの人たちが働けるようになり、確かに負荷は減った。


 それでももう少し、と思っていたが。


 世界は、あの不死の魔術師という存在は。


 待っていてはくれないようだ。



「――剣星様、第五の、異界溢れパンデミックです!」


「侵源地はどこだ?」



 俺も近付き、確認すると。



「大陸北、武人領。港町マシーマが近いらしい、程度の速報です」


「遠い、な。タズマ殿、頼めるか」


「無論です。シーヴァ、皆を集めて」


「は、はい、お待ちを」


「シーヴァ、どうした?」



 顔色の変わったメイドに、俺は心がざわつく。

 そして、『シーヴァ』が動揺しているというコトに理解して。

 その事実にギョッとする。



「シーヴァの、故郷だね?」



 まさか、とは言え、そういうコトだってあり得たと自分の見通しの甘さに怒りすら覚えた。



「いいえ、大丈夫です、皆を呼んで参ります……」


「あ、私が行きます」



 ヘルートさんが、気を回してくれた。

 俺は頷き、見送って。



「シーヴァ、一緒に助けに行こう。ご家族はそこに?」


「いえ、いえ…… そのとなり町ではありますが、すぐ近く。山城を構えたレードという砦町とりでまちに」


「そうか、じゃあ、そのレードに何人か下ろして、本隊はマシーマを助けに行こうかの。もちろん、シーヴァさんは家族を優先することだ」


「剣星様、ありがとうございます」



 俺たちの空気を察し、剣星様は作戦に組み込んでくれた。

 なかなか出来るコトじゃない。


 さすがっすわ、真面目にしてたら憧れる。



「訓練生も、今回は移動のみ附随してきて。練習の速度ではないから、ついてこれなかったら戻ってくれ」



 本格的に、気合いを入れ覚悟を決めよう。



「一人でも多く助けるぞ!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る