第49話 反撃 それは鬼神の一撃




「騎士長を、中に居る騎士長を、助けてくれ! 頼む!!」



 騎士の瞳に輝く涙とか、なにこのイケメン……。

 じゃ、なくて。



「怪我人がいるんですね!?」


「ああ、頼むッ!」



 だから、こんな水車小屋トコロに背を向けて守っていたのか。


 もっと早くに、とは言えないか、回復魔法なんて中々使い手が居ないと言われていたしな。


 それは後、とにかく扉を開いて飛び込んだ。


 そこには、息も絶え絶えな老人が…… ん?


 誰かに似ている、全身甲冑のその人は。



「剣星様、ではないですね。傷を見せてください。私は回復魔法が使えます」


「ぐう、なぜ子供が居るんだ…… 女子供は、各家の隠し部屋シェルターに籠るか船に乗れと……」


「私は救援です、ああもう、回復しますよっ」



 傷は深く、失血がひどい…… だが、右脇腹の傷口以外には大きな傷はないみたいだ。

 これならば……。



「【上級回復魔法レイジングヒール】! すぐに治して見せます……!」


「な、んと……」



 剣星様に似ている騎士長の、内臓の見えていた傷を治していく…… ドンドンと吸い込まれる魔力を感じながら、落ちそうになる意識を歯を喰い縛って耐えた。



「ああ、あっ、ありがとう小さな魔法使い殿……」



 簡単ではない傷口だった。

 なにせ…… 鎧の破片と魔物の牙が残っていたから。



「ふぅ、これだけの傷を受けて、良くご無事でしたね」


「これはきっと神の加護だろう…… 君が来てくれたことも含めてね。我輩は騎士長ランダー・グルムガスだ」


「ふぅ、ふぅ、すいません、もう少しじっとしていてください」


「おお、すまない」



 まだ外側だけで、中の細かな部分は簡単に治らないから……。

 片手間に王都から特別な方法で到着したと告げると、騎士長さんは溜め息をついた。



「すると、オヤジも着いている、ワケか……。くっそ、みっともない姿を……」



 やはり、騎士様は剣星様のご身内、か。

 とすると、カッター侯爵のご兄弟。

 ファミリーネームが違うから、よくは分からないけど…… 再会できるほうがきっといいと思う。



「まだ、外には騎士が戦っているね? 我輩も、出ねばならん……」


「ダメですよ、まだ中身が…… 血が足りません。回復魔法は本人の治癒を高めて治しますが、上級回復では欠損の補修を術者がコントロールするのです。異常のある組織は排除しますし、異物は除去します。ですが、血液は傷口で作るものではありません」


「ならば、早く。頼む……!」


「やっているのですよ。外見からは分からないでしょうが、血液とは骨の中で作られるのです。血液の増加は今も回復魔法を調節して促進していますが、一瞬で終わるコトでは、ないのです」


「うむむ…… そうか……」



 長々説明したが、子供な俺に言い負かされるような形になってしまい、大変に申し訳ない。


 騎士長の状態は正直なところ、直ぐに立たせては不味マズいけど動けないワケではない。

 さて、この後どう対応したら良いのだろうか。


 戦ってやれないワケではないからといって、一応貴族の人だろうし当然、先頭に立つ、そんな教育を受けてるだろうからなぁ。



 まぁ…… 結果からすると、心配は要らなかった。



《ビカッ!!》


「うわちっ。眩しい……!」


「やはり…… 本当に、剣の才能だけでは、どうにも届かないな……」



 外から閃光があった。

 それが済むと、今度はさっきまでのざわめきが消え失せて…… 魔物の唸り声が消えていた。


 俺は、扉を開けて外を見て、惚けてしまった。


 いや、見たハズ…… なのに、さっきまでと景色が一変していて、騎士長を守るという意識を手放してしまったのだ。


 水車小屋の前には道があり、その横には畑があって、魔物が踏み荒らしていた。


 しかし道を境に、そこは真っ黒の川が出来ていた。



「何の、魔法で……」


「いや、今のは剣星のスキルだよ。竜をも切り落とす剣撃の極み…… 『剣斬天元けんざんてんげん』の一撃だ」


「スキル…… 個人の力で、このような」



 そこで、扉の近くに居たシーヴァが騎士長の言葉に震えていた。

 きっと、目の前で見ても信じられなかったのだろう…… こんな、魔物の群れが、一瞬で全てズタズタになっているなんて。


 しかし、某エクス○リバーみたいなビームではなさそうだ…… どっちかと言うと戦略シミュレーションの範囲攻撃みたい。  



「みな無事か?」


「は。しかし、剣星様がこれほどのお力とは……」


「これを発動するのに要する条件は厳しいらしいからな。子の我輩わがはいにすら、教えてはくれぬ」


「難しい技なのですね……!」



 いやいや、回復魔法の使い手が少ないのとはワケが違うでしょう。

 剣星様といえば、剣の才能がありつつなお研鑽にあけくれ、大陸を剣のみで一周し天下の剣撃技を編み出した強者ツワモノですよ……!


 当然、幼少期にはその冒険絵巻に夢中になりましたとも。

 男の子だからね!



「ところで、その親父は…… まだ見えないか」


「発動させたのは、だいぶ遠くですね……」



 どうやら、北東の方からの攻撃だ。


 しかし、方角を言わなくてはならないほどの攻撃って…… もはや兵器、才能云々うんぬんの問題ではなさそうですが。


 壊滅的打撃を受けた魔物の群れは、街を標的から外して散り散りに駆けていく。


 その大多数が黒い塊となっている場所に……。



《バシュアッ!!》



 先程と同じように、ただ放たれる光、それだけの事だったのだ。



「訂正。やっぱり、エク○カリバーだった……」


「タズマ君?」


「や、何でもないです…… 圧倒的ですね……」


「ね、剣星様が誰かに倒されるとか、考えられないでしょう」



 要するに、俺は田舎者だったという事らしい。


 こんな剣星様みたいな実力者…… というより化け物クラスの戦力があるなら、それに近しい実力者を運ぶ方法さえあればいい。


 だからこそ、剣星様は俺の小型船ボートに乗ったのだろう。



「スゴイや…… やっぱり、英雄はいる!」



 だけど俺がしてきた心配や努力はまた別だ。

 ムダじゃない。

 簡単に言えば、クジラとして生まれたか、人として生まれたかが違うようなものだろう。



「剣星様と競うコトは出来ても、得意分野で勝てるワケもない…… 生きる立場も場所も違う。剣星様は飛行魔法を使えなくても高く遠くへと攻撃できる。だけど俺は、高く飛べるし回復魔法も使える。違いがある、それだけだ」



 羨ましくは、あるけれど。

 だからこそ、わざわざ口にだして自分に言い聞かせたんだ。



「君…… まだ名前を聞いていなかった」


「はい。アレヤ子爵家三男、タズマと申します」


「まだ幼いが、上級回復魔法を使えるのだ。君をランダー伯爵の名をもって『大魔法使い』と認めよう」


「ひぇ、も、勿体なき……」



 やっぱり、爵位持ちだった…… しかも伯爵様ッスか……!

 思わず千暁チアキのマネをしちまったぜ。



「あ、タズマ君、剣星様が二つ名を考えて下さっていますからね。お楽しみに」


「ひぃえっ!?」


「むう、やはり親父は手が早いな……」



 そんなオマケ、聞いてませんけど?




 ☆




 街の中では、剣星様の攻撃の圧倒的効果によって、魔物も慌て飛び出していった。

 損耗していた俺たちとしては追撃する余裕はない。


 ここまで落ち着いてくれば隠れているだろう住民を助け、あとは救援本隊を待って、街の防備を復旧していけばいいだろう。



 あと、大商人などが船に乗っているのかと思ったら、漁師や輸送船の長が住民を乗れるだけ乗せて港を離れていたという『保護活動』の船が大多数だった。


 やはり協力体制大事……!


 安全と思われる船を持つ側の『妥協の産物』なのかも知れないが、それでも助かる命が増えたのは確実。



「もう、肩の力を抜いてもいいのよ」



 そんな後片付けの最中、ヘルートさんが小声で教えてくれた瞬間、ぐらりと…… 後ろにいたプチに抱き締められながら、俺はまた気を失った。



「今回はボクがナイスキャッチ♡」


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