第21話 いわゆるスケベイベントというやつ
カエルムの悲鳴を聞いて、一旦作業を中断して、急いで地下室の様子を見に行った。
地下室には、危険なスライムも飼育しているので、その水槽でも触ったのだろうか?
「カエルム! 大丈夫? どうしたの?」
「あ……いや、ちょっとスライムが……うっ」
地下室の床にカエルムが背中を丸めて蹲り、小刻みに震えている。
蓋が開いている水槽からスライムが逃げ出さないように、ひとまず水槽に蓋をしてカエルムのもとに行った。
「カエルム! 何があったの!?」
もう一度問いかけると、床に蹲るカエルムが、頬を紅潮させ涙目でこちらを見上げた。
何このイケメンの色気。ヤバい。
辛そうなカエルムには、申し訳ないがそう思ってしまった。
「くっ……スライムが……っ」
「スライムがどうしたの?」
苦しそうに蹲る、カエルムの背をさすりながら問う。
「リ……ァ……、さわ……らないで……くっ」
カエルムが息を詰まらせる。
何があったの? カエルムに作業を頼んだ水槽以外、蓋は開いてない。そして、カエルムが作業をしていた水槽のスライムは、危険な毒などは持ってないので、万が一ゼリーや粘液が体に付着したり、口に入ったりしても人体に危険はないはずだ。
「スライムが……うっ」
「スライムがどうしたの?」
「……スライムがっ……服の中に……」
あー……
「服の中に入っちゃったのね」
元気のいいスライムが、水槽から飛び出して、貼り付かれる事はたまにあるのよねぇ。
スライムは隙間があると入りたがるから、服の中まで入っちゃったのね。素肌にスライムが張り付くと、くすぐったいし、すごく気持ち悪いのよね。
前世で見た、えっちな薄い本にありそうな展開だわ。
二次元だけの話かと思ったけど、スライムのいるこの世界だと、起こってもおかしくない展開だわ、というか目の前で起こっている。
スライムに弄ばれるイケメン――何それ、眼福。
そういえば、溶解液を出したり、ゼリー部分自体が物質を溶かす性質のスライムもいたりするけど、前世の記憶にあるえっちな本の常連だった、衣類だけ溶かすスライムは見た事ないわね。
そんな、ご都合主義のスライムなんて居てたまるか、とは思うけど。
はっ! つい思考が他所に行ってしまったわ。そんな事より、カエルムを助けなきゃ。
薬草ばかり与えて害のないスライムとは言え、魔物であることには変わりない。生きたスライムが直接肌に付着するのは、あまりよろしくない。
「く……」
「服を脱ぐのが手っ取り早いわね。今、すぐに、助けるわ」
「ぇ……っちょ?」
蹲ってるカエルムの膝の後ろと、背中に腕を回して、重力操作の魔法を使って、カエルムの体を横抱きで持ち上げ、壁に寄りかけて座らせた。
「脱がすわよ?」
「え? まって……あっ!?」
カエルムが抵抗するように、上着の胸元を抑えるが、服の中のスライムが動くと、ビクンと反応して上着を抑える手の力が緩んだ。
「服脱いで、さっさと取り出した方が楽になるわよ」
今はまだ上半身の方にいるようだが、うっかり下の方へ入り込むと、もっと大変な事になる。さすがにズボン下ろすのは気が引けるし……カエルム拾った時にズボンまで下ろしたから、今さらだけど、やっぱ恥ずかしいわ。
「さあ! 観念しなさい!」
「いや……っ! ちょっとま……っ! うわああああああ……」
「ふう、これで、もう大丈夫よ。ズボンの中に入る前でよかったわ」
カエルムの服を剝ぎ取って、体に張り付いてたスライムを掴んで、水槽に投げ込んだ。
「また……抱き上げられた、しかも脱がされた……」
「え?」
カエルムが俯いてボソボソと何かを言った。
スライムが服の中に入って、相当精神的ダメージ受けたのかもしれない。あんな、ブヨンブヨンした物体が、直接肌に触れるとか、気持ち悪いもんね。魔物慣れしてない、いいとこのお坊ちゃんなら、なおさらだろう。
「いや、ありがとう……スライムがいきなり飛び出して来て……すまない、助かった」
上半身を晒して、がっくりと肩を落とすカエルムは、まだ頬が紅潮して、息が上がっている。しかも、スライムが直接肌の上を這ったせいで、肌にスライムの粘液が付着して、そこがテカテカになってるので、とてもイケナイ姿に見えてしまう。
服の中に入ったスライムを捕獲しようと、必死だった時は気にしてなかったけど、冷静に考えたら、私、カエルムを無理やり半裸にしたんだわ。しかも、結構ペタペタと生肌を触ってしまったわ……。
ものすごく、はしたないことをしてしまったのでは!?
いや、でも、これは、スライムからカエルムを助ける為に、必要な行為であって、何もやましい事はしてない。
しかし、恥ずかしい。恥ずかしさで視線を彷徨わせると、同じく視線を彷徨わせてる、半裸のカエルムと目が合った。
「…………」
「…………」
なんだろう、この私がまるでカエルムを、襲ってしまったような罪悪感。とても気まずい。とりあえずこの空気を、何とかしないと。
「あの」
「リア」
被った。
気まずい時に限って、こうなるものなのか。ものすごく、気まずい。
「コホン」
咳払いが聞こえて、カエルムと揃って、肩を刎ねさせた。
「お前ら、我の存在を忘れてはいないか?」
いつの間にか、地下室のテーブルの上に、ナベリウスが留まっていた。
そういえば、今日は作る量が多いのでナベリウスにも、手伝ってもらってたのだった。すっかり忘れてた。
「何だ? 今日は、たくさん魔法薬を、作らなければならないのじゃないのか? 乳繰り合っている暇はあるのか?」
ナベリウスが、意地の悪そうな表情で、首を傾げた。
「ち、乳繰り合うって……! そんなんじゃないわ! カ、カエルムはとりあえず、シャワー浴びて、体に付いたスライムゼリー流して来て」
「あ、ああ。そうさせてもらう」
「ナベちゃんは、カエルムの替わりにスライムゼリーの回収お願い」
「うむ、ランチのデザート一品追加で」
「あーもう、一品でも二品でも追加するわよ!」
「承った」
「はぁ……」
脱いだ服を抱えて、階段を上がって行くカエルムの背中が見えなくなって、溜息をついた。
スライムに弄ばれるイケメンと、それを脱がす私。
どう考えても痴女では!?
強引に脱がしちゃったし、嫌われたらどうしよう。
「あああああああああああ……」
頭を抱えてその場に蹲る。
恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい!
「煩いぞ。今日はやる事多いのだろう? 早く作業に戻れ」
「だってぇ~」
「それとも何か? 小僧の裸を見て盛ったか?」
「は?」
「お前が、押し倒して、脱がしたのだろう?」
コイツどこから見てたんだ。
「そんなにあの小僧が気になるなら、魔女らしく媚薬でも盛ってみたらどうだ?」
「そんな事するわけないでしょ! ナベちゃんのバカ! アンポンタン!」
カラスの癖に、ニヤニヤと笑うような表情のナベリウスを怒鳴りつけて、カエルムが回収した分のスカイムゼリーの入っているボウルを持って、地下室から調合部屋に戻った。
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