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「そんな……」


ヘンリー様はがっくりと膝をついてしまいました。なんとも情けない姿です。


「帰りましょう、チャールズ様。話は終わったようですわ」


「そうですね」


「待て!お前たち、俺に協力しないなら力づくで従わせるぞ!」


何を言っているのでしょう。剣術もまともに学んでいないヘンリー様に何が出来るというのかしら。チャールズ様はもちろん、私でも勝てそうだわ。


ちらりとチャールズ様を見ると、かなりお怒りのようでした。いい加減、早く帰りたいのでしょうね。私が話を聞くと言ってしまったせいですね。本当に申し訳ないわ……。


「ヘンリー様、あまり馬鹿なことをおっしゃるのでしたら僕にも考えがあります。ヘンリー様が開拓地に飛ばされるという噂があるのはご存じですか?その噂を真実にして差し上げましょう」


「はっ!お前にそんなことが……」


「出来ますよ。あなたより私の方が国王からの信頼が厚いですからね。国王は僕の助言を受け入れるでしょう。国にとって害にしかならない人を飛ばす理由なんていくらでも考えられますよ。どうしますか?大人しく教会に入りますか?それとも開拓地で汗水たらして働きますか?今なら選ばせてあげます」


チャールズ様がヘンリー様に優しく問いかけると、ヘンリー様は獣のような声で絶叫していらっしゃいました。耳が痛くなってしまいます。


顔をしかめていると、チャールズ様は私の手をとって、さっと部屋から連れ出してくれました。


「私のせいで帰るのが遅くなってしまいましたね。すみません、チャールズ様……」


「ローラのせいではありませんよ、気にしないで。……それより僕のこと、いつまでチャールズ様と呼ぶのですか?先ほどの王子と同等のようで嫌です。呼び捨てにしてください」


そんなことを気にしていたのですね……。てっきり早く帰れなくて怒っているのかと思っていました。


「分かりました……チャールズ」


呼び捨てにすると、チャールズは満足そうに笑いました。


「では帰りましょう、ローラ」


「はい!」




数か月後、この国には本当に干ばつが起きました。けれど予想より酷いものではなかった上に、チャールズの主導で食料の確保が十分になされていたため、大きな問題にはなりませんでした。


国王はチャールズを高く評価したようです。確保した食料の大半はチャールズの領地で作られた作物でしたから、人々からも大変感謝されていました。


「チャールズ、少しお休みになってください。作物確保の目途も立ちましたし。あまり無理をすると身体を壊してしまいますよ」


「ローラが休むなら僕も休みますよ。あなたこそ休息が必要だ。フィンレー領の土壌も改善の兆しが見られますし、少し長めの休みをとっても良いのではないのですか?」


「そうですね……では一緒に休みましょうか」


結婚してから旅行にも行けていませんでしたから、二人で少し遠出をすることにしました。


「そうだわ、西の開拓地の方へ行ってみませんか?行く途中に温泉もありますし、開拓地の土壌に興味がありますの」


「ローラ……本当に休む気がありますか?それに、西の開拓地は……。東にしませんか?あちらの方が景色が綺麗ですよ」


あら?チャールズが珍しく焦っていますね。西に何かあるのかしら?まさか……


「チャールズ、まさか本当に第三王子を飛ばしたのですか?」


「いや……僕の提案ではないのですが、彼が勝手に国王の逆鱗に触れたようですよ」


なるほどー。彼は無自覚に人の怒りを買うのが得意ですからね。そうなる運命だったのかもしれませんね。




「では東の開拓地に行きましょうか」


彼がどんな目に遭っているかなんて興味ないですもの。






ローラとチャールズは、その後も様々な知恵で領地を発展していった。そして国一番のおしどり夫婦として羨望の眼差しを受けるようになった。


-完-

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あなたに婚約破棄されてから、幸運なことばかりです。本当に不思議ですね。 香木あかり @moso_ko

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