盆踊りはどのような踊りか知らない。

 今日は盆踊りである。

 これこそ夏祭りと、一緒にやればよかっただろう。

 夏祭りの時と、同じ浴衣を着て集まっているのがその証拠だ。


「助手さん、盆踊りはどんな踊りなんだい」

「知らん。適当に腕や足を、わちゃわちゃ振り回しておけ」


「はあ……。日本人というのは、自分の国の文化に誇りを持ってなくていけないね。文化のいいとこ取り、柔軟に対応してきたと言えば聞こえばいいが、確固たるアイデンティティーが存在しない。のっぴきならない危機がこの国に訪れた時、人々は団結して対処できるのか。私はそういう側面には、危機感を持っているよ」


「大丈夫だ、そういう時、日本人は『無宗教』という連帯感で、一致団結できる」

「……それを誇らしげにできる国民性は、本当にどうかと思うよ」


 せっかくなので(何がせっかくか分からんが)、みんなでお面を買って踊ろうということになった。


「君塚、私はどんなのが似合うと思う?」

「夏凪のイメージか……」


 イメージ、ね。


「ナギサはアカオニがいいと思うわ。すぐ怒って真っ赤になるから、ぴったりじゃない?」


 シャルよ……俺もぴったりだと思ったが、それを本人に言うのはよろしくない、と師匠に習わなかったか?


「余計なお世話よ! あなたに聞いてないしっ」


 案のじょう夏凪アカオニは真っ赤になって、シャルを「倍殺し!」しようとした。


 斎川はペンギンだった。

 夏場になぜその商品があると思わないでもないが、ぴょこぴょこしているのがまさにイメージ通りだ。

 夏凪の強襲をかわし続け、根負けさせたシャルは、何とかレンジャー(グリーン)のお面を購入していた。

 「ジャパンの戦隊もの」にあこがれがあるらしい。


 ヒルネは、空前のブームを巻き起こした、アニメの主人公のものを選んだ。


「アニメも映画も見てないけど、どこの店でもグッズが置いてあるから、影響されてしまったよ」


 そうそう。あの物量商法、洗脳が半端ないよな。


 それから俺たちは祭りが明けるまで、「奇妙な踊り」を踊り明かした。

 はたから見れば、とても珍妙で奇怪きっかいな、さぞ連帯感のある集団に見えたことだろう。



「いつまでもこんな時間が続けばいいのにな」


 がらにもなくそんな言葉が出てしまったのは、ここの所のぬるま湯のような日々のせいか。昼寝が来るまでは、まさに激動の日々だったからな。

 そんな弛緩しかんした空気の俺を、ヒルネがとがめる。


「バカか、君は。私を殺す気かい?」


 なんでだよ。


「そういうのを日本では、『死亡フラグ』というのだよ」


 自覚はしていた。反省している。


「知ってるわ。クールジャパンの様式美ね!」


 シャルがいらん口を挟んでくる。


「『この戦争が終わったら、結婚するんだ……』で戦死するとか、『やったか!?』でられるとか。あと『押すなよ、押すなよ……絶対に押すなよ?』で押すのがお決まりとか」


 最後のは、死亡フラグじゃない。

 芸人のフリだ。


「まあ、シエスタも意外とジンクスを気にしていたからな……」


 そういう所は姉に似たのかもな。

 口はわざわいの元というし、少し気をつけるか。


 ほんの少しな。


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