トコロテンとシャインマスカットは、罪の味

「その。流すデザートとは?」

「まずは、トコロテンだ。流すって言っても、押し出すに近いかな?」


 ソナエさんが寒天を四角い型に入れて、グッと後ろから押し出しました。ガラスの器に、透明なそうめん状の寒天がデロっと載ります。


「ここに、黒蜜をかけるんだ」


 黒蜜とは、黒砂糖を溶かしたものだとか。


「おおお。蠱惑的な色合いですね」

「そうだな。酢じょう油で食ってもうまいが、デザートだから黒蜜にした」

「いただきますね」


 ズズっと食べるデザートなんて、これまた面妖ですね。


 では、トコロテンをすすります。


「あ~っ、これまた罪深うまい!」


 なんの味がしない寒天に、濃厚な黒蜜が合わさって。

 味はゼリーに近いでしょうか。ただ、食感はゼリーとはまた違いますね。

 すすって食べるためか、独特の風味になっています。

 糖分を吸うことによって、甘味の混ざった空気が鼻を抜けていくんでしょう。


「おいしい!」


 子どものサジーナさんには苦手かなと思いましたが、二杯目をいただいていました。これはこれは。好き嫌いがないのは、立派なことです。


「続いては、なにがあるのです?」

「ブドウだ。流しながら冷やす」


 マスカットが、竹から流れてきました。


「ホントはサジーナがトコロテンを食べられなかったら、先に流す予定だったんだよ。でも食えたから後でいいなって」

「こちらも風流ですね」


 コロコロと竹を駆け抜けるマスカットを、お箸でいただく。なんとも珍妙ではありませんか。


「いただきます……ん? 皮をめくれませんっ」

「それ、皮ごと食えるぞ」

「ホントですか? おお、ホントだ。これは罪深うまい」


 これ、ホントにおいしいです! 舌がしびれるほどすごく甘いのに、皮が一気にサッパリな風味へと変えてくれます。皮のシャキシャキした食感も、たまりませんね。


 こんな食べ物があったとは。


「シャインマスカットってんだ。あたしももらいものだから、原産はよく知らないんだが、食ってみたら超うまくてさ。甘いのに、酒に合うんだよ」


 わかります。サクサクした皮のサッパリ感は、お酒向きでしょうね。


 ごちそうさまでした。


「では、我々はいっぱい食べたので、ソナエさんとハシオさんが食べてください」

「おっ、流してくれるか?」

「ええ。おまかせを」


 今度は、わたしがそうめんのザルを持ちます。サジーナさんに、流してもらいましょうかね? ずっとやりたそうにしていましたし。


「あんたに頼んだら、上で全部食われちまうと思って、先に食ってもらったんだ」


 それはいい選択でした。


(流しそうめん編 完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る