毎日お味噌汁を作れない妻は、罪な女ですか?

 せっかくのお食事の場が、ピリピリし始めますか、と思いました。

 ですが、ワイワイと楽しいお酒になっています。


「あいつ、子どもの頃に会った、初恋の女が忘れられないってのよ。幼なじみのあちきがいるってのにさあ!」

「そいつぁ、ひっどい話だな! ラノベ主人公か、っての!」


 女子二人で、悪口合戦が始まっちゃいました。


 きっと、お互いにアカツキさんの話なのでしょうね。同じ人の話をしていることに、気づいているかはわかりませんが。


 当事者ではないわたしは、加わらないでおきましょう。お味噌汁おいしいです。


「クズなのよアイツは! 片思いの相手は、FかGカップなんですって! 胸がなくて悪かったわね!」


 それは有罪ですね。おっと、思わずお話に加わろうとしていまいました。いけません。お味噌汁おかわりして、気持ちを落ち着かせましょう。


「あたしもこの間、お見合いの席に参加したんだよ。『毎日味噌汁作ってくれ』とか言われたから、帰ってやった。まったく、家事は全部女の仕事かっての」

「お手伝いさんに、やってもらえばいいわ。お金に余裕があるならの話だけど」

「それもアリだよな。二人の時間を作るって発想を、相手には持って欲しいぜ」


 二人は、お酒を酌み交わしました。


「でもなあ、わちきだったら、やってしまうかもしれない」


 虚空を見上げながら、キサラさんは盃を傾けます。


「そうなん? あんた姫じゃん」

「姫でも簡単な家事はできるわ。炊事は花嫁修業で習ったし。好きな相手なら、なんだってしてあげたいって思うけど」


 といっても、キサラさんの家事は趣味の範囲を超えないそうですが。


「あたしは絶対嫌だ。花嫁修業も逃げてきたくらいだし」


 ソナエさんの言葉は、圧が強いですね。


「家事自体が?」

「分担しないって発想が、腹立つんだよ。花婿も修行すべきだろ?」


 家事は手伝うもんじゃなくて、わかりあうもんだと、ソナエさんは主張しました。


「女はさ、子どもを産むんだ。理解のない夫に嫁いだら、大変に決まってるからな」

「なにかワケアリね、あんた」


 空になったソナエさんの盃に、キサラさんがお酒をつぎます。


「父親が仕事人間で、家のことをなにもしねえヤツだったからな。いわゆる古風な男でさ、『男子厨房へ入るべからず』を地で行く男だった。母が大変だったのを覚えているよ」

「それで、グレたんですね?」

「ああ。まあな」


 ソナエさんは学生当時、不良でした。学校をサボっては、どこかをブラついていたそうです。放課後は、頻繁にわたしを買い食いに誘ってきましたね。


「苦労したのね、あんた」


 キサラさんも、ソナエさんに同情します。


「まあ、それも若い頃だけさ。母の具合が悪くなったとき、父はようやく自分のしてきたことをわかったようでさ」


 お互いに歳をとった今では、お父上も家事をするようになったとか。


「それでも、あたしは許していない。最初からやれってんだ。母の苦労を見てきてるから、男には期待していないんだよ」


 ソナエさんは、男女に対等さを求める人のようでした。


 対してキサラさんは、尽くすタイプみたいですね。


「キサラ、あんたの目線から見てさ、味噌汁を作ろうとしない女って、罪か?」

「ソナエの感情次第なんじゃないの? 自分を殺してまで嫁ぐ必要は、ないと思うけれど?」

「そっか。ありがとな」


 どうやら、ソナエさんはキッパリお見合いをお流れにする予定のようです。


 ああ、ゴハンとお味噌汁って、どうしてこうもベストマッチなのでしょう? このマッチングは、罪ですね。


 ただ、みんなこんなにケンカしないで生きていけたらいいのに、とは考えません。


 みんな主張があって、みんな譲れない感情があるのです。


「クリス、あんたはどうなん?」


 おおっと、油断していました。


 急に、わたしへ向けて爆弾を投下してきましたよ、この人。

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