ギャルモチつき
「よう、戻ってきたな。じゃあ、ほら」
そう言って、ソナエさんはわたしに杵をよこします。
「お前ら二人は、そっち担当な。あたしは、こっちの臼をつくから」
「わたしたちで、おモチを作るんですか?」
「そうさ。これは『ギャルモチつき』つってな。縁起がいいものなんだ」
『ギャルみこし』なら、聞いたことがありました。
エマがよく駆り出されていくのを見ます。
お神輿を引っ張る、お祭りの行事でしたね。
衣装もハッピだったり天使の装束を着たりして、バリエーションが豊富なのですよ。
「よくわかってんじゃねえの。これは、そのモチつき版だ。女性がつくことで、女神の力が得られるんだとよ」
なるほど、わかりません。
いいでしょう。
異国とはいえ、一応は神様が考えたお祭りです。
ご利益はあるかと。
「お正月くらいムサいおっさんがつくより、女性におモチをついてもらいたい」というお気持はわかります。
「せめて、やり方くらいは教えてくださっても」
「あんたらなら、見たらわかるよ。そら!」
ソナエさんが、臼のお米に杵を突きます。
ドン、と力強い音を立てて、モチ米が砕けていきました。
水を手につけた巫女のお嬢さんが、おモチをひっくり返します。
「なるほど。ああやるのですね?」
杵を片手持ちして、こちらの臼にモチ米がくるのを待ちました。
「来ましたわ。あれですわよね?」
風呂敷のような布に包んだ何かを、数人の巫女さんが担いで持ってきます。
臼の中へダイブさせたそれは、やはりモチ米ですね。
「では、張り切ってまいりましょう」
わたしは、片手で杵を持ち上げました。
「ですわね! タイミングは、おまかせいたしますわ」
「お願いします。さっそく……ホアタァ!」
ドスン、と杵を米に叩きつけます。
ズン……という鈍い音がしました。
「はい!」
「ホアタ!」
ウル王女が裏返すタイミングで、再度杵を叩き込みます。
「なんだあれっ!?」
「杵を片手で持ち上げて、ついているわ!」
片手で木製ハンマーを振り下ろすのが、そんなに珍しいのでしょうか?
少し力自慢な冒険者なら、一般的なのですが。
実業家に転身したモーリッツさんとかも、冒険者当時は両手にハンマーとか扱っていましたよ。
「はい!」
「ホアタ!」
「はい!」
「ホアタ!」
王女の裏返すスピードも上がってきました。
こういうのは鮮度が大事です。早めに行きましょう。
「すげえ! 杵が見えねえ!」
「裏返す方も、負けていないわ!」
ギャラリーが、わたしたちのところにドンドン集まってきました。
「まだです。もうひとつ杵を!」
木槌をつきながら、巫女さんに指示を飛ばします。
「え?」
「早く!」
「は、はい。どうぞ!」
「ありがとうございますホアタ!」
両手で杵つき作戦で、より鮮度のいいモチを仕上げて差し上げましょう。
「なんだあれ!?」
「両手で杵を扱うモチつきなんて、初めて見たわ!」
さらに、観衆が集まってきました。少し、目立ちすぎですかね?
とはいえ、わたしの速度にウル王女も本気になりました。
腕にすばやさアップの魔法を施しています。
「は」「ホ」「は」「ホ」「は」「ホ」
周囲の視線など構わず、杵を打ち続けました。
「やべえ、ドンドン速くなってやがる!」
「さっきの倍は速度があるわ!」
いい感じに、おモチの伸びがよくなってきましたよ。
「はい、ラストですわ!」
「ホォアタァ!」
十分におモチが、でき上がりました。
「やっぱすげえな、あんたら。頼んで正解だったよ」
先に作業を終えたソナエさんが、わたしたちに歩み寄ります。
「まあ、ざっとこんなもんですわ」
ウル王女が、汗を腕で拭いました。
「王女様も、ご苦労さまだな。シスターの杵についてこられるか問題だったけど」
「長年のお付き合いですから、タイミングはバッチリですわ」
「ありがとう。次はモチ撒きだ」
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