ルームサービスは、罪の味

 魔王ドローレスが促すので、わたしも着席しました。

 燕尾服の男装少女は、わたしに微笑みかけます。


「ああ。誰かと思えば、そうでした」


 わたしは先日、ドラゴンを追い払ったんでしたっけ。


「人間に擬態できるのですね」

「魔王ドローレス様より、教わりました。地上で生活するなら、この姿が効率いいと。名前までいただきました。ドレミーといいます」


 たしかに、ドラゴンのままでは、討伐されるリスクが高まります。


「すいませんでした。あなたを有名な方とは知らず」

「ドラゴンは血の気が多いからね」


 まして、主の元から逃げて飢餓状態だったそうで。


「いえいえ。魔王は優しくしてくださっていますか?」

「それはもう。よくしてもらっています。首の紋章も、ほら」


 ドレミーさんがスカーフを解きました。すっかり首はキレイになっています。


「まあ、せっかくだ。食いながら聞きなよ。コーヒーが冷めちまう」


 ドレミーさんに指示を出して、ドローレスはわたしの前にワゴンを用意しました。


 蓋を開けると、コーヒーのポットとデニッシュ、フルーツが並んでいます。

 わお、メロンですよ、メロン!

 これはテンションが上がりますね。


「よろしいので?」

「構わんよ。あんたのために用意させたんだからさ」


 他人のルームサービスですが、くださるというので。


「遠慮せず、いただきます」


 この、ブドウを一口。


 ええ。うん。問題なく罪深うまい。

 確認するまでもありません。

 フルーツですからね。

 当然、おいしいに決まっています。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 ドレミーさんに、コーヒーを淹れていただきました。

 おしゃれなポットですねぇ。

 ミルクも足して、カフェオレで飲みます。


「はああ。最高ですね」


 思わず、ため息が漏れました。


 このカフェオレと、デニッシュの相性がまたバツグンで。


 ジューシーなブドウとは対照的なのですが、デニッシュは合わせるものに応じて味が変化します。

 カフェオレと合わせれば、パンの味わいがしました。


「では、メロンと一緒にいただきます」


 ああもう、手が震えます!


 フルーツと合わせると、これがパイに変わるのですよ。


 なんという変わり身の速さでしょう。

 お見事としか言いようがありません。


 満足気に、魔王はもう一房のブドウを一気に手に取りました。

 顔の前に吊るして、皮ごとガブッとかじっています。

 砂漠の国の食べ方ですよ、それは。


「ほら、あんたも」


 そう言って魔王がドレミーさんに差し出したのは、一枚のえびせんでした。

 サクラエビが大量に練り込まれていて、磯の香りが広がります。


「コイツな、サクラエビが好物なんだよ」


 おとなしく口を開き、ドレミーさんはえびせんを噛み締めました。


 かと思えば、魔王が彼女の襟を掴んでグイッと引きます。


「キレイなもんだろ、ドレミーの首は」


 魔王が、ドレミーさんに顔を近づけさせました。


 きれいな首筋を強調され、ドレミーさんは困惑しています。


「はい。見事なお仕事ぶりで」

「あたしのところに転がり込んできたときは、戸惑ったよ。しかし、メモにあんたの名前があったからね。すぐに押し付けられたんだってわかったさ」

「すいません」

「いいんだ。ドラゴンを世話できるなんて、この界隈じゃあたしくらいだからね。いつでも頼ってきなって言ってやった」


 事情を察し、ドローレスは彼女を配下にしました。稽古まで付けているとか。


「術式まで、解いてあげたんですね?」

「これがまいっちまったよ。複雑な魔術式で。外すのが大変だった」


 魔術関係で、魔王がグチをこぼすとは。


「あなたほどの使い手でさえ、手こずるほどの人間だったんですね?」

「人間が相手だったら、まだよかったんだけどね」


……なるほど。ようやく話が繋がりました。


「例の真祖が、術式の使い手だったのですね?」

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