ゴートブル討伐

 我々は、ゴートブルの巣に到着しました。


「あれがゴートブルですか」


 ダンジョンというには短めの巣穴に、ゴートブルが潜んでいました。体格が、ミュラーさんより大きいです。毛並みはモフモフしていそうですが、険しい顔をしていますね。


「牛さんなのに、ダンジョンの構造とかも把握しているのですね?」

「元は、キメラだしな」


 大昔の魔法使いが開発した、キメラの一種だそうです。野生化して数が増え、今の形まで進化したのだとか。ゴートブルからすれば、開発しておいて放置とかいい迷惑だと思いますね。


 普段は森などに棲んでいるのですが、適度な洞窟を見つけて雨風を凌ぐようです。


「こちらには気づいていませんね」


 わたしは、腕をまくります。


「狩る気、満々だな。嬢ちゃんはシスターやってるのに、あまり殺生にはこだわらないんだな?」

「ええ、まあ平気な方ですね」


 シスターの学校には、ニワトリをさばく作業を見学する授業があります。そこでは、命をいただくことの大切さを教わります。


 ですが血を見てしまって以降、お肉を食べられなくなった子はいます。


 むしろ、わたしはシメ方を教えている方ですね。刃物は扱いませんが。


「実家が山だったので、狩りに出されたことが多くて」


 人と接するより、野山を駆け回るほうが好きでした。


 見識を深めることと、コミュニケーションを学ばせるために、両親は私を教会へ入れたのです。


 肉食やたくさん食べることは、決して悪いことではないと教わっていたので、素食のほうが堪えましたね。


「といっても、命を奪う行為はどうやっても慣れませんが」

「さばくのはこっちでやるから、嬢ちゃんは弱らせるだけでいい」


 細かい作戦を聞きます。


「で、注意点などは?」

「やっぱり、角よね。魔族の作った角を流用しているらしくてさ、魔法すら弾き飛ばすの」


 試しに、ヘルトさんが陽動で火球を飛ばしました。狙いは、相手の顔面です。


 ゴートブルが、首をブンと振りました。なんと、ヘルトさんの魔法を蹴散らしてしまいます。


「これはこれは」


 あの角は、厄介ですね。わたしのパンチも効くかどうか。


「対策は?」

「考えがあります」


 ミュラーさんには、うまくいかなかったときのサポートをお願いしました。


「ヘルトさん!」

「はいな。ファイアーボール!」


 ヘルトさんが、杖から何発も火球を放ちます。


 またも、ゴートブルが角をブンブンと振って炎を蹴散らしました。


「これで。ホアタァ!」


 わたしは、がら空きになった首筋にカカト落としを食らわせます。脳しんとうを狙いましたが、果たして。


 ゴートブルの眼が、ギロリとこちらを睨みます。失敗でしょうか?


 ですが、ゴートブルが白目をむきます。そのまま、膝から崩れ落ちました。


「よし、毛を刈り取ったらさばいてしまおう」


 毛布にするための毛を、ヘルトさんがハサミと風魔法で刈ります。


 ミュラーさんが、ゴートブルの首を切りました。

 血を抜いてシメて、解体します。

 

 わたしに配慮してくれているのか、ヘルトさんが氷魔法で肉を速攻で凍らせました。これで、店売りの肉に早変わりです。


 刃物を扱えないわたしは、どちらもお手伝いできません。なので、荷物持ちを引き受けます。


「わるいな嬢ちゃん。相変わらず、怪力だな。オレも力はあるから、持つぜ?」

「いいえ、手伝わせてください」


 そのために、やってきたのですから。奪った命を有効活用することも、社会勉強です。


 ギルドに帰って、換金しました。


「これから私たちでジンギスカンにするけれど、一緒にどう?」


 ジンギスカンですか! いい響きです。やはり羊さんだからですかね。


「その場でさばいたほうがウマイんだが、ハンバーグもイケるってよ。それで、洋食屋などに分けるんだ」

「存じ上げています。今日は帰りますね」

「大変だな。せっかく取った肉を食べられないなんて」


 まったくです。


 仲間にウソをつかないと、食べにもいけないなんて。

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