なんだか、すごいことになっちゃいましたよ

 テーブルにずらりと並んだ、屋台メシの数々に、思わずため息が漏れました。


 普通の女子なら、全部食べ切れない量です。普通じゃないわたしは、食べちゃいますけれど。


「うわ、なんだかすごいことになっちゃいましたよ」


 まずは、たこ焼きをいただきましょう。一番安い、四個入りです。


「ホワ熱熱熱ャ……」


 口の中がヤケドしないように、呼吸しながら食べましょう。


「はふはふっ。ああ、罪深うまい」


 これは、いいたこ焼きです。タコの弾力が申し分ありません。生地もカリッとしつつ、しっとりした味わいで。中身はクラーケンですが、味はまごうことなきたこ焼きですね。すばらしい転生ぶりです、クラーケンさん。


 シスター・ローラに感想を言おうとしましたが、お忙しそうなので遠慮しておきます。


「お次はジャンボソーセージを。ほう、これも実にいいですね」


 噛んだ瞬間、肉汁が溢れてきました。いいお肉です。もっとパサついているものだとばかり。辛子がきいて、最高のソーセージです。


 じゃがバターもいいですね。ちょうどいい感じに、バターが溶けています。


 タレまみれの焼鳥、実にいいですね。皮は塩でいただきましたが、サッパリして口の中をいい感じにリセットしてくれます。ただ味は、塩の方が濃いんですよね。


 焼きとうもろこしに、豪快にかぶりつきます。おしょう油たっぷりの味わいが、口の中に広がってきました。噛み締めながら、うなずいちゃってます。じゃがバターとは違った、穀物の可能性を感じますね。


 不足がちなお野菜は、キャベツ焼きとソース焼きそばで補いました。どちらもハーフサイズです。野菜というよりは、炭水化物祭りですが。


 これらをラムネで流し込む、と。空になったガラスボトルの中で、ビー玉が風鈴のような音を奏でました。


 すばらしい。胃袋がお祭り騒ぎですね。これはもう、追加してしまいましょう。


「おでんをください。それと炭酸を」


 こうなったら、とことんいきましょう。大根や卵をいただきます。


「ほふほふ、これも罪深うまい」


 これでお酒が飲めたら、完全にただの酔っ払いに見えるんでしょうね。 


「どうだい、クリス。堪能したかい?」


 ひと仕事終えたシスター・ローラが、様子を見に来ました。わたしのラムネ瓶が空になったのを知っていたのか、ジョッキ入りの炭酸を持ってきてくれています。


「ありがとうございます。でも、お酒じゃないですよね?」

「酒はこっち」


 匂いをかぐと、たしかにローラ先生の方はアルコールが入っているようでした。


 乾杯の音頭もなく、ローラ先生はジョッキをわたしの分にカチンと鳴らしてエールを煽ります。


「今日は、ごちそうさまでした

「いいって。いい食いっぷりだね?」


 空の容器だけになったテーブルを見て、わたしは苦笑いします。


 遠くで光が上がって、大輪の花を咲かせました。


「あ、花火ですね」


 ベストポジションとは言い難いですが、花火は屋台のイートインで眺めるのが、わたしにはちょうどいいのかも知れません。


 複数のカップルが、花火を見上げながら寄り添い合っています。


「あんなマネは、できそうにありません」


 わたしのような人間を、人は『色気より食い気』というのでしょう。


「だろうね。アンタは一生、結婚できないだろうね」

「やはり、そう思いますか?」


 ローラ先生の言葉を、わたしは否定しません。


「人当たりも良くて、家事もできる。子供の面倒見もいい。けど、性欲がまるでないもん。全部、食欲に振り切れてる。目の前にイイ男が現れても、アンタはディナーのメニュー表ばかり見ているんだろうさ」


 言いながら、ローラ先生はほほえみます。


「それでは、婚期を逃しますね」


 つられて、わたしも笑います。


「でも、アンタはそれでいいのさ。一人でも、屋台で花火を見て幸せを感じられるなら」

「わたしも、そういう生き方がいいです」


 自分の将来について考えていると、またお腹が空いてきました。


 次は、どの屋台を回りましょうかねぇ? 

 

 

(屋台編 完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る