初めての、罪の味 ~ポテチ一袋~
【出前ニャン】スタッフをトレーニング
教会が管理する修練場で、わたしはゴロンさんと組手をしています。
わたし以外にも、シスター総出で【出前ニャン】のスタッフをトレーニングしています。
実は【出前ニャン】の経営陣から我が教会に、「メンバー全員を鍛えてくれ」と依頼があったのでした。ゴロンさんが野盗に因縁をつけられたと聞いて、スタッフの武術訓練を義務化したそうです。
もっとわかりやすく言えば、「この教会で教わっているぞ」という宣伝をして、スタッフに野盗を寄り付かせないようにしたいみたいですね。
それだけ、我が教会が武闘派だと認識されているのでしょう。
誰のせいなんでしょうか?
突きを繰り出したゴロンさんの手を払い、後ろに回り込みました。片手だけで、ゴロンさんを羽交い締めにします。
「いたたた!っ」と音を上げて、ゴロンさんがタップしました。
「いいですか。本気のゴロツキが相手なら、組み付きだけでは済まされないでしょう。そのまま押し倒されてしまったら、女性の力ではどうにもなりません」
スタッフたちにも、緊張が走ります。他人事ではないですからね。
「捕まりそうなら逃げる! まず、これだけ覚えて帰ってくださいね」
「はい!」
その後も、組み手の練習は続きますが、あまり本格的な実技はしません。
下手に自信をもたせて誰かのケンカを買ったりなんてしたら、目も当てられませんから。
トレーニングは護身のため。我々は、腕自慢を育てたいわけではありません。
「人に拳を打ち込むと痛い」ことを知っていただくだけにとどめました。
「一番いいのは、お手持ちのペンで相手の手なり太ももなりを突く、その直後に逃亡! という手でしょうか? 非常に痛いので、実戦訓練はできませんが」
わたしが教える護身術を、みなさんはメモしていきます。
「質問!」
一人のスタッフが手を上げました。
「はいどうぞ」
「どうすれば、シスター・クリスのように強くなれますか?」
難しい、質問ですねえ。
「わたしは、別に強くないですよ?」
「しかし、冒険者の間では、シスター・クリスは中盤の要だとか」
「あれは悪い例です」
わたしは回復役であるはずなのですが、なぜか前衛寄りの扱いを受けます。
本来、仲間内でマルチタスクはあまり推奨されません。ちゃんと回復係と前衛は、分担する必要があるのです。
ミュラーさんとヘルトさんがあまりにも優秀すぎて、だれも組みたがらないのです。
「では、あなたが強くなった経緯を教えて下さい」
質問してきたのは、ゴロンさんです。
いいでしょう。わたしのルーツをお教えします。
「これは、まだわたしが何も知らないガキンチョだった頃の話です。そこでわたしは、生涯の師となる人物と対面しました」
わたしの家は、騎士の称号を得た家族の一人娘でした。
冒険者から貴族に上り詰めた家です。
そんな経歴なので、他の貴族たちからはあまりいい顔はされません。
両親の分け隔てない人柄がわかると、徐々に周囲の態度も軟化していきました。
街を襲った野良モンスターを退治したのが、よかったのでしょうね。
わたしも、両親を見習って武芸に励んでいました。
一二歳になったとき、わたしは親の言いつけでシスター養成学校に出されます。
「もっと女の子らしく育ってほしい」という、両親の願いからでした。
わたしは、狩りをしている方が楽しかったのですけどね。
学生時代、わたしたちの前に聖歌隊の指導員が来てくださいました。非常勤講師だそうです。
名前はシスター・ローラ。
丸々と太ったダークエルフさんでした。
人間と言うより、オオサンショウウオのような外見です。
歌は最強に上手でした。しかし、世俗にまみれた人でしたね。
彼女の指導は破天荒で、「当時の流行歌を賛美歌としてアレンジする」という変わったものでした。おかげで、賛美歌に興味のない生徒も巻き込んで楽しい授業だったのを覚えています。
ですが、当時わたしは歌そのものが得意ではなく、賛美歌の授業が好きではありませんでした。
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