スイカでかき氷という、罪を重ねる

 子どもたちは、飼育員のお姉さんとスイカ割りをはじめました。

 割れたスイカを分け合っています。

 ただ、あまりおいしそうな顔をしていません。

 家畜用のスイカらしく、糖度が低いみたいですね。


 寝そべりながら眺めていたカピバラさんが、近づいてきます。まだ食べたりない個体が、割れたスイカの汁を舐めにきました。


 子どもたちも、スイカを食べさせます。これぞ、慈しみの心ですね。


「これがメロンだったら、空いた皮の器にテキーラ入れるんだけれどね」


 お酒が飲めるシスター・エマが、罪深いメニューを提案します。


 彼女がランチでお粥を食べるのも、いつも晩酌で二日酔いになっているからなのです。


 教会の言い分では、「お酒は神様も飲むから、一杯程度ならOK」なんですって。


 お酒が良くて外食がダメなんて、教会って不公平ですね。誰にも迷惑をかけませんよ?


「酔っ払ってはダメですよ、シスター・エマ。まだ引率は終わっていませんから」


 わたしたちは、子どもたちを見守る立場にあります。


「夢を語るのは自由よ」


 エマも大概ですね。さすが元ヤン。


「では、こちらなんていかがでしょう?」

飼育員さんが、氷の塊とサイダーを用意してくれます。

「いきますね」


 皮の器の上に、氷を魔法で宙に浮かせました。

 クルクルと空中で回る氷をナイフでシャカシャカと削っていきます。みるみる、氷の山ができあがっていきました。スイカかき氷ですね。


「お酒はダメですが、サイダーなら」


 山状の氷へ、サイダーをドボドボと流し込みます。


 いけませんいけません。これはもう、美味しいやつです。有罪です。


「召し上がってください」

「はい。いただきます」


 秒でスプーンを差し込みました。


 ああ、なんて罪深うまい!

 

 炭酸の清涼感と氷の冷たさが加わって、より罪深さが増しました。炭酸の甘みが強めなのも、アクセントになっていいです。


 こんなにも罪を重ねるなんて、あっていいのでしょうか!? でもおいしさには抗えません。


 皮に残った身も削って、かき氷と一緒に食べると、またたまりませんね。最高です。これは、大人の贅沢というやつですね。


 また一歩、オトナになってしまいました。


「おいしいわ。スイカのさっぱりさと合わさって最強ね。テキーラもいいけれど、サイダーも悪くないわ」

「そうでしょうそうでしょう。お酒を入れなければ、皮はカピバラが食べてくれますし」

「なるほど。理にかなっているわ」


 かき氷、堪能いたしました。


「ごちそうさまでした。ありがとうございました」

「いえいえ、興奮したカピバラを抑えてくださったお礼ですから」


 園児たちを送迎馬車で送った後、教会へ戻ります。


 夕飯は、いつものように質素です。まあ、今日はスイカを食べられたのでいいでしょう。


 ルームメイトのエマと、寝間着に着替えます。ていうか、あなた相変わらずそんなネグリジェで寝るんですね。なんと業深エロい。


「あたし、あれ教会でも試そうかしら?」

「いいですね。エマさんならお酒がありますから、氷魔法さえあれば」


 スイカは、半玉状の器にしてもらえれば、中身は食べてもらってもいいですから。


「そうね。あなたなら、フルーツをたくさん乗せる感じかしら?」

「切ったイチゴやブドウを乗せたいですねー」


 夢が広がります。

 

 分け合うという精神も、大事です。

 が、オトナになれば楽しめるささやかな贅沢もあるのですね。

 

「おやすみ、クリス」

「おやすみなさい、エマ」


 就寝後、わたしはスイカに囲まれる夢を見ました。


 食べても食べても減らないなんて、罪深い!

 サイダーも入れ放題ですよ。

 こんなにたくさん、一人で食べてもいいとは。


 ですが、やがてわたしはスイカの山に押し潰されます。


「うう、苦しい」


 目が覚めると、シスター・エマのスイカップがわたしの顔にのしかかっていました。




(半玉スイカ編 完)

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