第762話、要塞艦とか超巨大ブルドーザー艦とか


 陸上艦――漫画や小説だと、超巨大履帯とかホバークラフトとか、あるいは謎装置で地上を進む巨大な艦船型の兵器である。バイク戦艦とかもあったかな……? 


 とにかく巨大なもので踏み潰したり、または地上すれすれを浮かんだり、海ではなく陸を行くというのが特徴だ。


 ただし、これらを再現すると、超巨大で超重量を支えて移動できる履帯とかタイヤとか、形はともかくきちんと動くものにするのにどれくらい時間がかかるか見当がつかない。


 確か、俺のいた世界に、ヨーロッパだったかな、超巨大な採掘車があるとか聞いたことがあるが。……こんなことなら詳しく調べれば、もしかしたら作ってみようって気になったかもしれないな。


 だから、いまある技術で陸上艦を作ろうとしたら、航空艦にも用いている『浮遊石』を使うほうが確実かつ迅速だ。

 そんなわけで考えたのは、帝国製輸送艦を改装した強襲揚陸艦をコアに、城壁パーツを艦の側面に取り付けて、必要となれば分離、合体させることができるというものだ。


 何故、強襲揚陸艦かと言えば、格納庫を持ち、魔人機や戦車を運用でき、また駐機甲板があるので、航空機が使えるからだ。

 わざわざ現地で飛行場や適当な広場を探さなくても機械兵器を使えるというのは、展開力に優れる。


 で、城壁パーツを付けるのは、強襲揚陸艦自体があまり防御性能がよくないこと、対空砲程度しかないという火力不足を補うためだ。

 強固な装甲を壁のように張り巡らし、頂上部分には狭間付きの胸壁の他、対空・対地両用のプラズマカノン砲塔を備えて、敵対者を攻撃するのだ。


 城壁パーツと本体艦を別にした利点は、建造資材の削減と時間の節約だ。帝国輸送艦の改装のほうが、一から艦を作るより魔力資材と時間を削減できる。そして新造するのは城壁パーツ部分のみだ。

 トータルでみる限り、やはり一から全部作るよりは安くできる見込みである。


 ここでもう一つ、コア艦に接続する外部パーツという点が、新たなアイデアを生んだ。それは、本体に取り付ける城壁パーツを、それぞれ単独で行動できるようにして、パーツ同士を合体させることで、長大な城壁を戦場に形成することができるというものだ。


 コア艦から分離した城壁パーツ――いや城壁艦は、揚陸艦の全長145メートルとほぼ同等の長さを持ち、高さは20メートルほどと標準的な城壁を凌駕している。


 そんなものが平原にドンと立てば、野戦はたちまち攻城戦に早変わり。敵は不利になり、こちらは高い防御に守られながら射撃することができる。

 キャンプなどの四方を囲めば即席の砦に。全部を一直線に繋げれば長さ300メートルに近い長城の出来上がりだ。さらに移動できるということは……壁を押し上げることで、敵は迫る壁から逃げる羽目になるだろう。


 と、アイデアだけは、いいことだらけに思えるが、実際にやってみたらそう上手くいかないこともあるだろう。

 やってみて、駄目なら、強襲揚陸艦と城壁艦は別々に使えばいい。本体コアとも言うべきか揚陸艦は、フューリアス級三隻のうち、艦隊配備がまだの『カレイジャス』を改装してみよう。


 さて、この陸上をいく艦の呼称なのだが……どんなのがいいだろう? 陸上艦、移動要塞、城塞艦……うーん。



  ・  ・  ・



 ひとつ作れば、また次のものが閃く。俺も楽しんでいるなぁと思う。あるいは、現実逃避なのかもしれない。

 移動要塞艦(仮)が、城そのものを動かすというアイデアで考えられた。城壁艦という移動する壁を考えると、要塞艦の護衛艦というべき小型陸上艦という案が思考によぎる。


 ブルドーザーの如き巨大城壁が戦場を整地していく……。それに無数の大砲を乗せたら、戦車も目じゃない。

 それを現実にやろうとしたら、妄想と一蹴される代物だ。だが、浮遊石で艦艇を浮かせられる技術があるこの世界だと、できてしまうのだからやらない手はない。そう、浮遊石がなければ、大帝国とて空中艦を作れなかっただろう。


 さて、護衛艦である。揚陸艦コアの要塞艦が全長約150メートルほど。それより小型にまとめつつ、火力重視で考える。もっとも地上の戦車や軍団を蹴散らせればいいので、巨砲は必要なく、むしろ多数の砲を乗せたほうがいいだろう。


 航空機運用は考えない。戦場での壁であり、敵野戦軍を蹴散らす兵器として考える。

 ということで、艦体に小型とはいえ砲を満載したものをいくつか書いてみる。適当に詰め込んだら、「これ百メートル超えるな」とか、「砲を詰め込んだはいいが、どこに弾薬庫なり魔力タンクを置くんだ?」とか、「これ居住区全滅だ」とか、まあ色々不都合が出てくる。


 大きさを考えなければ、全部詰め込めるのだが、あまりに巨大だと、陸上という地形に影響される要素が邪魔をする。それでなくても平原などの平らで広い場所しか動けないのだから。護衛艦という点も忘れてはならない。


 ああだこうだとまとめた結果、全長は70メートルほど。76ミリプラズマカノン連装砲四基八門。艦の両舷に同単装砲を四基ずつ計八門、そして艦首にブルドーザーにおけるドーザーブレードにあたる城壁をつけ、これにも単装砲を四基載せる。ドーザー付き駆逐艦、ともいうべき姿になった。


 砲は、戦車にも使っている76ミリ砲でもよかったのだが、対空射撃ができて、敵城塞への打撃も期待できるプラズマカノンとした。すべてエネルギー砲としたので、艦内はそれを撃ちまくるためのタンクだらけとなった。元々、自動化を進め、少人数運用を考えていたとはいえ、居住区は最低だけどな!


 機関はテラ・フィデリティア艦同様、インフィニーエンジン。ただし設置場所と火力維持を優先したため、小型であまり速度は出ないタイプだ。浮遊石搭載艦なので、陸上を行くが、一応、空も飛べるようになっている。大クレバスだろうが、山だろうが迂回できる仕様である。


 現在の世界の軍事レベルでいえば、明らかにオーバースペックである。……まあ、古代機械文明時代の兵器ひとつをとっても同じく過剰なのだが。


 仕方ないね。数を揃えて、同じような武器で戦争しましょうねって戦い方は、うちにはできないから。少数精鋭を突き詰め過ぎると、こうもなろう。

 少なくとも、たとえ500体もの帝国ゴーレムを相手にしても蹴散らせる。


 陸上艦構想をまとめている時に、北方からジャルジー公爵が報告がてら、俺の元へとやってきた。

 広大なズィーゲン平原を有するケーニゲン領。迅速な兵力展開のために魔人機母艦を配備しようという話は前からあったので、それを込みでの話し合いだ。


 俺はさっそく彼に、陸上艦案を披露した。まだ構想中というという前置きはしたが。


「素晴らしい! やはり兄貴は天才だ!」


 ジャルジーは声を弾ませ、俺の書いた陸上艦のイラストと概要を凝視した。


「移動する城か。確かにケーニゲン領は広い平原が多い。まさに、これほど北方防衛にこれほど打ってつけの兵器もない!」

「ノベルシオン国が帝国側に落ちた。アンバンサー戦役での復興が遅れている東部防衛でも、移動拠点は重宝するだろうね」

「東部に配備か」


 ジャルジーは腕を組んで唸る。


「大帝国と睨み合いを続けている北方でも、この陸上艦は早めに欲しいぞ」

「そうなると、双方同時に配備ができるようにしないとな」

「できるのか?」

「資材があれば」


 うちの人工コアやディーシーの力があれば、魔力建造で作れる。ヴェルガー伯爵のノルテ海艦隊の建造がひと段落したので、改装や建造ラインには余裕がある。


「帝国輸送艦をまたかっぱらってこないとな」

「いいぞいいぞ……」


 ジャルジーが楽しそうに手をこすり合わせた。

 そんなわけで、陸上艦という大物である。エマン王へお伺いを立てる必要があるので、俺とジャルジーはポータルで王城へと飛んだ。

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