第166話、トキトモ工廠製ファイター
ウェントゥス地下基地。俺はその格納庫にいた。アーリィーとベルさんがいて、ディーシーがそれをお披露目した。
「対大帝国用の航空兵力、戦闘機のプロトタイプが完成した」
俺たちの前には、3機の航空機。いずれも形状が異なる。
「主がつけた番号に従って、紹介しよう。まず、TF-1ファルケ」
全長9.0メートル。スピアヘッドによく似ているが、その胴体は楔形であり、正面や側面から見ると三角形を意識した形となっている。どこか、異星人とかが乗ってそうなSFチックなデザインでもある。
アーリィーが言った。
「大きさはシュトルヒくらい?」
「コクピットがいやに小さくねえか?」
ベルさんのコメントにディーシーは首を傾けた。
「TF-1は、シェイプシフター専用の軽戦闘機だよ。だから人が乗り込むようなコクピットは不要だ」
もちろん、シェイプシフターパイロットの搭乗口を改造して、人間用のシートを載せれば有人仕様にできるが。
「小型で軽量、かつ量産性に優れた機体だ。そのスピード、運動性は実は、他の二機より優れている」
「ただし、武装は少ないけどな」
俺は指摘する。魔力ジェットエンジン1基を搭載。武器にはプラズマ砲を2門。テラ・フィデリティア航空軍製の空対空ミサイルを4発積む。機体の大きさと形状から、それ以上は無理だ。
ディーシーが指さした。
「そして次の機体だ。TF-2ドラケン」
全長12.8メートル。全幅8.6メートルの機体は、真っ直ぐ伸びたボディに単座のコクピット、胴体中央に二基の
「こちらはちゃんとコクピットがあるね」
アーリィーもにっこり。しかしベルさんは――
「ちと、窮屈そうに見えるなあ」
全体的に小型で胴体部とコクピットキャノビーの幅が同じくらいに見えるからだろう。何というか、バイク的な細さというか、スモール感。
「その分、身軽だ。小回りがきいて、ワイバーンとの空中格闘戦でもそうそう負けないと思う」
そもそもが、対ワイバーン戦を考慮し運動性を重視した軽戦闘機、だからな。
武装はプラズマ砲2門。機首に20ミリの機関砲が1門。主翼に4つのハードポイント、胴体下に1つのハードポイントがあり、ミサイルなどを搭載できる。これも軽戦闘機だから武装搭載量はあまり多くない。
「ちなみに、ドラケンってなんて意味なんだ?」
ベルさんの質問に俺は答える。
「『ドラゴン』って意味だよ」
この世界ではなく、スウェーデンの言葉だけどな。
「ドラゴンはワイバーンより強い、だろ?」
「なるほどね」
なおTF-1、ファルケの意味はドイツ語で『鷹』だ。
そして残すは3番目の機体。ワイバーン戦を想定しつつ、大帝国の艦艇を撃破できる攻撃力を備えた重戦闘機。
TF-3戦闘攻撃機、『トロヴァオン』。ポルトガル語で『雷』の意味だ。
なお、命名について補足すると、俺は別に外国語を多数操れるわけではない。ゲームや漫画知識ね。
「でかいな」
ベルさんはそう評した。
トロヴァオンは、全長15.6メートル。鋭角的な機首に、胴体やや後ろの左右に大型魔力ジェットエンジンを片側1基、計2基搭載する。そこから伸びる主翼。後部尾翼は斜めに上に2枚、下に2枚の計4枚だ。
武装は機首に2門のプラズマ砲。20ミリ機関砲1門。胴体後部下にミサイルを積めるウェポンベイ。主翼の下にもミサイルを積めるハードポイントを3基ずつ備えている。その積載量は、ドラケンやファルケを凌駕している。
搭載するエンジンは、ドラケン搭載のものより出力でやや劣っているものの、2基搭載しているために総合で上回っている。さらにエンジンの噴射口は推力偏向ノズルを採用し、噴射方向を調整できるため、高い運動性能を発揮する。
ファルケ、ドラケンに比べて一回り大きな機体だが、総合的に優れた機体であり、多様な任務に対応できる適応性を誇る。
「どう思う?」
俺はアーリィーに感想を求める。彼女はドラケンとトロヴァオンを見比べる。
「ドラケンは身軽そうだけど、攻撃を受けたら弱そう。トロヴァオンの方はガッチリしているね。安定感というか、安心感がある」
「なるほど」
「乗るならトロヴァオンのほうがよさそうだけど、速さの面ではどうなのかな?」
「最高速度なら実はトロヴァオンとドラケンは、ほとんど変わらないよ。ファルケは一歩リードしているけど」
「じゃあ、トロヴァオンのほうが優秀ってこと?」
「小回りと挙動のよさでは、ドラケンが上だけどね。あとトロヴァオンより一回り小さいから、その分スペースを取らない」
俺は格納庫を見渡した。
「もし両機をそれぞれみっちり置いたとすれば、小さいドラケンのほうが数が多く置ける」
「戦いは数って言うからな」
ベルさんが皮肉げに言った。ディーシーが頷く。
「小型な分、製造に必要な部品、つまり魔力は少なくて済む。これも量産するにあたって無視できないところだよ」
「まあ、俺たちには、世界樹っていう魔力補充装置があるけどね」
カプリコーン浮遊島工廠の下にあるプチ世界樹の魔力と、ディーシーやテラ・フィデリティアの製造設備を使えば大量生産も難しくない。
「それに小型っていうのは、悪い面でもないんだ」
俺は近くのコンソールに行き、とあるデータを呼び出した。アーリィーが覗き込む。
「これは?」
「航空母艦――航空機を搭載して、戦場を移動するエアクラフト・キャリアーだ」
平ぺったい盾を横にしたような船体を持つ、航空機を運用するための母艦――空母である。俺のいた世界では海の上を行く海上船舶だが、ここでは浮遊石を積んで空を飛べるようにする。
「大帝国との戦いが、ヴェリラルド王国のルーガナ領近辺だけに収まるはずがないからね」
現状、俺たちの航空機の整備や補給ができる場所が、ここ以外にない。だから、いつ、どこでも航空機を投入できるように航空母艦の整備は必要なのだ。
「本当は空母ってものは、もっと大きいほうがいいんだけどね。カプリコーン工廠の再生にまだ時間が掛かるから、とりあえず、小さめの艦艇を用意して、戦力化を急がせる」
空母は大きければ、その分、格納庫や飛行甲板が広く使えるから艦載機の積める数が増やせる傾向にある。弾薬、燃料も然りだ。
艦体が小さければ、格納庫も狭くなるから使える機体の数も少なくなってしまう。だが航空機自体が小さければ、ある程度数を載せられるって寸法だ。
「おーい、ジン」
ベルさんがドラケンのコクピットへのハシゴに乗っている。
「こいつは飛べるのかい?」
「あ、ボクも飛ばしたい!」
アーリィーが志願した。はいはい、じゃあまずは操縦を覚えてねー。俺はディーシーと頷き合うと、二人に操縦レクチャーをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます