第140話、学校へご挨拶


 ポータル経由で、オリビア近衛副隊長は王都へ戻った。


 近衛隊本部にて、上官である隊長ブルトと、複数の近衛騎士の戦死を報告するためだ。さらにアーリィーがアクティス魔法騎士学校に再度通うための準備と、補充兵の相談などなど。


 戻ってきたオリビアは、いの一番に俺のもとに報告にきた。


「王子殿下の護衛人員については、ひとまず現状のままということになりました」


 生真面目な女騎士は、少々お疲れのご様子だった。


「ひとまず、私は副隊長から隊長に昇格となりました。いえ、もしかしたら後で正式な隊長が着任するかもしれませんが」

「おめでとう、オリビア近衛隊長」

「ありがとうございます、ジン殿」


 素直な返事だった。最初の頃の警戒感はまるでなく、トゲも感じない。ブルト隊長の死のショックを引きずっているのか、あるいは心機一転したのかは定かではない。


「人員の補充については?」

「これも現状のままですね。補充について手配はすると返答でしたが、そもそも近衛隊自体は人員に余裕がありませんから、すぐにどうこうは」


 王族の警護隊でもあるから、それなりの技能や戦技を有していないとなれないものだろう。基本はエリートのはずだからな。……まあ、俺やベルさんから見たら、そこらの騎士と比べて、あまり大差ない程度なんだけど。


「そういうわけですので、引き続き、ご協力いただけると幸いです」

「及ばずながら、殿下にお約束しましたからお手伝いします」

「……殿下を呼び捨てにされないのですか?」


 怒るでもなく、オリビアが指摘した。突っ込まれないために『殿下』呼びしたら、突っ込まれた。どういうことなの。


「隊長殿の前ですからね」


 オリビアが、俺のアーリィーに対する呼び捨てを快く思っていないのは知ってる。ブルト隊長は、聞かなかったかのようにスルーしていたけどね。


「公の前でなければ……それに殿下ご自身が許されているのであれば、構いませんよ。ついでに私のことも、皆の前でなければ呼び捨てで結構です」


 ……どうしちゃったの? 角がとれて丸くなっちゃった?


「まあ、それでいいなら」


 本人がいいと言うなら、そうする。


「それで、ザンドーのことは話したのか?」

「はい、報告は義務ですから」


 オリビアは心持ち表情を曇らせた。


「ただし、狂乱して殿下に襲いかかり、ブルト隊長と相打ちで死亡したことにしましたが」

「そうか……」


 ザンドーは死んだことにしておけ、と言ったのは俺とベルさんだ。まさか国王が絡んでいたなんて言えるはずもなく、また連中に欠片でも疑われたら近衛騎士と言えども命を狙われる。さすがにそれはよろしくない。これ以上、アーリィーの周りで犠牲者を出したくないからな。


 それはそれとして、果たしてオリビアの報告を近衛隊本部は信じただろうか? 生真面目オリビアが嘘の報告とか、違和感しかなく、そういう違和感は近衛隊本部でも気づかれているのではないか。


 シェイプシフターを送り込んでスパイさせておくか。


「ジン殿、これからアクティス魔法騎士学校へ行くのですが――」

「ああ、俺を生徒として送り込む話ね」


 王子の警備を担当する近衛である。それに関わることならば多少のゴリ押しができる立場だ。ここで上手くできなければ、せっかく通う気になったアーリィーのご機嫌を大きく損ねてしまうだろう。


「ジン殿にもご同行いただけないでしょうか? 実際に殿下のお側にいる者の顔見せも必要かと」

「そうだね。俺と会った上で、近衛隊長からお墨付きをもらえれば、学校側も了承せざるを得ないだろうし」


 生徒と同じくらいの若造になるのだから、王子の警護といっても侮られるかもしれない。近衛隊長であるオリビアが推しているのを、学校の指導陣に直接見てもらったほうが説得力が増すだろう。


 というわけで、俺とオリビア近衛隊長、そしてベルさんとディーシー、ビトレー氏らの一団を伴って王都、そしてアクティス魔法騎士学校へと向かった。



  ・  ・  ・



 賑わう王都の一角に、頑強な城壁に囲まれた魔法騎士学校があった。


 へぇ、こいつはなかなか立派なもんだ。


 ちょっとした城だ。城壁の向こうには宮殿に見えなくもない豪奢な建物や尖塔がいくつも見える。非常時には籠城ができそうだ。


 アクティス魔法騎士学校の正門。警備兵がいて、近衛隊長であるオリビアが説明すると敷地内へ入ることができた。


 門を抜けると、城のような作りの校舎が正面をあった。


「では、私とジン殿は校長に会ってきます」


 オリビアが言えば、ビトレー氏らは、王子が滞在することになる王族寮へ向かうことになる。俺はベルさんとディーシーに合図する。不審者、不審物がないか二人には調べてもらうのだ。


 しかし、王都もでかいが、この学校もでかい。


 校庭があるのは学校らしいが、校舎の他に生徒たちの寮があって、さらに敷地内に林まであるんだから。


 なお王族専用寮は、その林の先だったりする。やれやれ……。


 さて、俺とオリビアは校舎に行き、学校長と面談した。アーリィーは生徒として所属しているから、彼女自身に手続きは必要ないが、転入扱いの俺はさすがにきちんと挨拶と手続きが必要だ。


 しかもただの生徒ではなく、アーリィー王子殿下の護衛なのだから、同じクラスなのは当然であり、その席も近くでなければいけない。あと学校の指導についても、俺については特に成績を優先することなく、護衛に集中させるように各教官たちに徹底してもらう。


 校長は多少、表情を強張らせていたが、概ねこちらの要求どおりに進めてくれた。


 あーあー、これで俺も学校の生徒だよ……。魔法騎士生、ってやつだ。制服や教材も支給してもらえる。


 魔法騎士ってことで、だいたい予想はしていたけど、お金持ち学校っぽいな。この王国におけるエリート養成学校みたいなものなんだろう。


 学校長からは、貴族出身の生徒も多いので、あまり騒ぎや問題にならないように配慮をお願いされた。


 いくら近衛隊の要請とはいえ、学校としては貴族生徒とその家族から必要以上にヘイトを貰いたくないというのが本音なのだ。


 王族の権威をちらつかせるような振る舞いは避けてほしい、と言いたいのだろうが、すまんね、校長。それは相手次第、だ。

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