第99話、ミスリル鉱脈の今後と、装甲車作り
マスタースミスであるマルテロ氏が最低限必要としていたミスリルは確保した。
大空洞ダンジョンの第十三階層にミスリルの鉱脈があるのが確認されたので、目的も果たされた。
襲来するモンスターを退治していたベルさん、ヴォード氏、オリビアと合流して、ポータルのところに戻って、さらに王都冒険者ギルドへ帰還した。
……もう夕飯時だ。
待っていたラスィアさんに報告してルーガナ領へ……帰らせてはくれなかった。
アーリィーは、俺がやっていた魔法をおさらいしたくてウズウズしていた。王子殿下を引き留める理由もないので、彼女はオリビアと共に帰還。ベルさんも帰るというのでディーシーと去り、マルテロ氏とファブロは手に入れたミスリルインゴットでさっそく仕事にかかるそうだ。
となると、ミスリル鉱脈の件を報告できるのは俺だけになってしまったわけだ。談話室で、ヴォード氏とラスィアさん、そして俺で今後についてお話。
「今回はマルテロさんの事情があったので、ポータルも使いましたし、インゴット化もやりましたけど、基本的に俺はこの件にこれ以上、かかわりません」
大空洞ダンジョンのミスリルは、現地である王都の人たちが活用するものだ。よその領の関係者が手を出せば、反発をくらう。いらぬ敵は作らない。
ミスリルが欲しければ、ただの冒険者としてやってきてクエストの範囲でやっていく。
「ジン、お前の力はオレたちの常識の範囲の外にあると思う」
神妙な調子でヴォード氏は言った。
「お前に頼めるならそれですべて解決するだろうが、正直、お上に知られれば利用される未来しか見えない」
権力者なら俺やディーシーの力を積極的に活用しようとするだろう。
「その場合、自由は失われる。死ぬまで酷使されるかもしれない」
「それほどまでなのですか?」
現場を見ていないラスィアさんは驚いたが、ヴォード氏は真顔だった。
「ああ。一生束縛がついて回るだろう。オレが一番嫌いなやつだ」
根っからの冒険者であるヴォード氏である。……こういう人だから、俺も自分のできることを見せたんだけどね。それでもディーシーのことも含めて、秘密にしたままのもののほうが圧倒的に多いけど。
「だから、大空洞ダンジョンのミスリル鉱山の開発は、大変ではあるがこちらで何とか道を確保して切り開くべきだとオレは思う。それが非効率で、犠牲が多くなろうとも、だ」
本当なら犠牲が少ない方法を採用したいはずだ。王都冒険者ギルドの長として、冒険者たちの被害や犠牲は最小に収めたいと思っている。
そうなんだよなぁ……。一からダンジョンを抜けようとすると、危険カ所が多くて、採掘どころじゃない可能性も出てくる。
「ポータルだけは繋いでおきましょうか?」
俺は提案した。あれば道中をカットできるし、放置しておくだけなら俺も手間もない。架空の魔術師でもでっち上げて、そいつがやったことにするとかさ。
「そうしてもらえると助かるが……いいのか、ジン?」
「そこまでですよ? 採掘とか運び出し、加工は王都で何とかしてください」
王都にも職人がいるだろうし、仕事になりそうなら地元の人間に働いてもらうのが一番である。
というところで始末をつけて、俺はルーガナ領へ帰った。
もうすっかり夜になっていた。
・ ・ ・
数日が経過した。俺は特に呼び出されることもなく、アーリィーに魔法を教えたり、ボスケ大森林に入る冒険者を見守ったりしていた。
……ウェントゥス秘密基地での兵器開発も進んでいる。
「ほう……で、こいつは?」
ベルさんの質問に俺はニンマリした。
「装甲車だ」
全長は七メートルほど。幅は約三メートル、高さは二メートル五十センチくらい。全体的に平らな車体で、大型のタイヤは六つ。
無骨なブルドッグを思わす車体前面のせいで、遠くから見たら魔獣に見えるかもしれない。
基本的な車としての仕組みは魔法車と同じだ。各部に魔力を伝える伝達線をジャイアントスパイダーの糸を加工して繋げて、車体は鉄とコバルトを混ぜた装甲材を使った。例によってディーシーさんに部品の多くを生成してもらったがね。
「戦場を突っ切る時の乗り物も必要だと思うんだ」
「魔法車」
「あれは蛮族亜人とか盗賊に襲われた時、ちょっと頼りない」
飛んでくる矢だの石で、せっかくの愛車が傷つくのは嫌なものである。
ベルさんが装甲車を見上げた。
「魔法車に比べたらデカくて強そうだよな。下手な攻撃なら装甲が弾き飛ばしそうだ」
「見た目どおり、頑丈さ」
ブルドッグのような前部には運転席と助手席、ベルさん用の専用シート。後部には8人くらいが座ることが可能な席が設けられている。
「住めそう」
「ひとり二人なら寝袋で横になれるかな」
シートと床を併用するなら4人はいけるか。
「こいつは兵員輸送車も兼ねているから、兵士を乗せて戦場を突っ切ることができる」
そのための装甲付きだ。俺が灰色の車体装甲を軽く叩くと、ベルさんが言った。
「なんで、これを作る気になった?」
「アーリィーを魔法車に乗せただろ? でも俺たちも乗っているとさ、近衛用の席がないわけだ」
「あー、なるほど」
ベルさんが合点がいった。
「オリビアとかうるさいもんな」
「職務に熱心なのさ」
王族の警護だから、むしろそれくらい真剣にやって当然なんだろうけどね。
「この装甲車なら、遠出をする時も文句を言われずに済むだろ?」
「王子様の安全が優先、だもんな」
ベルさんが笑った。
「上も広いな。そこにも乗せられるんじゃね?」
「揺れるから、人を乗せるならあまり速度を出せないけどな。一応、両サイドに手すりを上げられるようになっているから、露天の荷物置き場にもなるぞ」
俺にはストレージがあるから、荷物を置くスペースはいらないんだけどね。俺以外の、例えばこの装甲車を量産するようなことになれば必要になるだろう。
「上面にハッチがあって、中から上に出られるようになってる。電撃砲とかその他装備をつけられるようにしている」
「へぇ、電撃砲か。武装できるのかい?」
「これだけガッチリしていれば多少はね」
俺のいた世界での装甲車も機関銃とかグレネードランチャーで武装していた。さすがに戦車砲クラスとなると、車体改造が必要な上に反動の問題もあるから攻撃面では限界があったけど。
「戦車が作りたいんだけどね……」
俺は装甲車から、視線を駐機されている大帝国製魔人機、カリッグへと向けた。
「色々クリアしないといけない問題もあるから、こっちが先かな」
仮想敵と同性能ではなく、凌駕した新型を。ウェントゥスオリジナル魔人機の製造は、反乱軍戦力の一角を担うだろう。
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