第72話、ヴォード氏、感心する
浮遊リフトを馬が牽引する。
俺たちはリフトの端に腰掛けてのんびり平原を進む。俺の隣に座っているアーリィーが言った。
「風が気持ちいい!」
「今日は天気がいいけど、前方からの風の対策はあったほうがいいかもしれない」
風を遮るものがないから、強風の日とか、あるいは冬などはかなりキツいかもしれない。
「自動車で驚かされたけど、こんな乗り物もあったなんて!」
アーリィーは楽しそうだった。ディーシーが黒髪をなびかせながら口を開く。
「ただのリフトだ。これを乗り物と言っていいか怪しいがな」
馬が曳くリフトカーは4台。俺とアーリィー、ディーシーとオリビアで1台。ブルト隊長と近衛騎士たちは分かれて2台。ヴォード氏とベルさんと余りの近衛騎士でもう1台だ。ベルさんがヴォード氏といるのは、同じSランク冒険者として話がしたいと申し込まれたからだ。
「この領にきてから驚きばかりだ」
そのヴォード氏が言った。
「こんな乗り物は初めてだ」
「ああ、まったく。ジンは時々変な発想をする」
ベルさんが同意した。
聞こえているぞ。リフトについては最初に言ったのは俺じゃなくてディーシーだぞ。
ともあれ、通常の馬より早足だった分、ハッシュ砦につくのも早かった。停止する時、ちょっとしたコツが必要だったが、事故もなく到着。
「最後、振り回されたね」
苦笑するアーリィー。俺は地面に足をつけた。
「リフトにブレーキがついていないせいだ。遠心力がかかったんだ」
停止する際、緩やかに旋回しつつクルッと反転して最後は馬が踏ん張る格好になった。その場で馬が止まると、引っ張っているリフトと馬と衝突してしまうからだ。
これも乗り物として手を加えるなら改良点となるだろう。
「ここがハッシュ砦か」
ヴォード氏が城壁を見上げる。もっともボスケ大森林地帯に対する壁のような形をした砦なので、こちらから見上げる城壁は裏側になるのだが。
なお、後ろ側の城壁はあまり高くない。
「この砦の先は、ボスケ大森林です」
俺はヴォード氏と砦の裏側を見やる。
「ここにも鍛冶屋とかちょっとした休憩所とか置いて、冒険者たちの拠点にしようと思っています」
「なるほど、砦が冒険者たちにとってもセーフゾーンになるわけか」
頷くヴォード氏。
「さっきのリフトも、フメリアの町との往復で使えるようにある程度数を揃えるつもりです。人のほか、多少の荷物とかも。運賃はとりますけどね。ま、安くしておきます」
「至れり尽くせり、だな。疲れた冒険者たちも歩かずにフメリアの町まで帰れるのは嬉しいだろう」
ヴォード氏の口ぶりでは好感触だ。
「ジン。あの砦の塔の上にある黒いものは何だ?」
「……ああ、大砲です」
「タイホウ……?」
「投射武器です。敵に砲弾をぶち込みます。弾に火薬が仕込まれていて……爆裂魔法が入った物体を撃ち込むものと思っていただければ問題ないかと」
要領を得ない顔のヴォード氏だったが、何となく想像ができたのか『そうか』と頷いた。
まあ、俺の元いた世界だと初期の大砲の弾はガチで鉄の玉で爆発はしなかった。物理で殴るの典型で、やっていることはハンマーでぶん殴るのと変わらない。大砲から撃ち出して、飛び道具として使ったことを除けば。……ただし撃ちだすパワーが、普通に殴るのと段違いの威力があるわけだけど。
大帝国の技術は、それら運動エネルギー弾を進化させ20世紀初期のレベルにまで引き上げた。砲弾自体に火薬を仕込み、爆発させるわけだから
「蛮族亜人の集団が攻めてきた時もアレが役に立ちました」
「防衛用の兵器というわけか」
「移動させられれば攻城兵器にもなりますよ。大型の投石器より省スペースですが、火薬や砲弾うんぬんで金がかかりますけど」
移動させればで思い出した。戦車も試してみるつもりだった。やることがいっぱいだ。
ヴォード氏は腕を組んで唸った。
「軍隊用の武器というわけか」
「冒険者じゃ、使い道ないでしょうね」
俺はヴォード氏に答えた。
「ただ、威力はありますよ。大型の魔獣の防御を貫いたりとか」
「それは一度見てみたいものだな」
そこでヴォード氏は、今度は警備の兵――シェイプシフター兵を指さした。
「あの守備隊の持っている見慣れない武器は何だ? クロスボウ……いや違うな。リムや弦がない」
「魔法銃ですね。ライトニングバレットといいます」
「ジュウ……。魔法と言ったか?」
「そうです。ライトニングの魔法を発射する武器です。魔術師が使う杖を、狙いがつけやすい形にしたものです」
さほど難しい機構は使っていない。難しいのは魔法文字を刻んでいることで、それが使えないと作ることもできないが。
「すると、あの兵士たちは魔術師なのか」
魔法を撃つと聞いたら、そう考えるのが普通か。俺は首を横に振った。
「いえ、彼らは魔法が使えません。あれの場合ライトニングしか撃てないですが、その代わりに魔法が使えない者でも使えるというのが利点です」
「……! それは凄い武器では」
ヴォード氏が食いついた。
「たとえば戦闘力が低くくて戦えない者も、仲間の支援ができたり、護身用に使えるのでは……!」
さすが冒険者ギルドのギルドマスター。その推察は間違っていない。元の世界でも海外じゃあ小型の銃は携帯性に優れて、護身用として家にあったりするらしいからね。日本じゃ銃刀法もあるから、無許可で所持はないんだけど。
「あれはどこで手に入るのか?」
「今のところ、うちの傭兵団の武器なので……料金はいただきますよ」
「王都冒険者ギルドでも試してみたい」
「了解。うちの兵も同行させるので、実際の効果はご自身で確認してください。……ああ、そうそう。アーリィー王子も強化型魔法銃を使っていますよ」
「ほう……」
視線は自然とアーリィーへと向く。
カメレオンコートに各種装備を身につけている王子様。その手にはカービンライフル型の魔法銃がある。近衛騎士と話し合っているアーリィーを見やり、ヴォード氏は感心した。
「さすが王族。防具も一級品のようだな」
「わかるんですか?」
俺は軽く眉を吊り上げた。それ、王宮から支給されたものじゃなくて、俺が作ってきたやつなんだけど……。まあ、言う必要はないか。
「ジン殿、出発の準備完了が整いました」
ブルト隊長が報告した。俺は頷いた。
「では、出発します。装備を持って出発!」
「近衛隊、出発ー!」
ブルトが号令をかけ、俺たちはハッシュ砦の城門からボスケ大森林へと向かった。
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