第59話、有人機仕様ゴーレム、テスト中


 フメリアの町の防衛戦力として、操縦できるゴーレムの開発を進める俺たち。近衛騎士や町の住民たちも興味津々であり、代わる代わる見学にきた。


 テストを繰り返し、小規模な改良が施されたゴーレムは、その能力を向上させていった。


 特に関節周りを魔人機と同様の仕様に変更したことで、ゴーレムながらジャンプしたり走ったりが可能になった。


 走るゴーレムが武器を手に突進する様は、見ていた近衛騎士の心胆を寒からしめた。


「これだけできれば、ガチでオーガとやり合えるんじゃないか?」


 これはプチ魔人機と言ってもいいのではないだろうか? 着込むわけではないが、戦闘用のパワードスーツと言ってもいいかもしれない。


 こういうのに騎士たちが興味を持つのはわかるが、意外にもアーリィーが非常に乗り気だった。


「視点が高い!」


 王子様はコクピットに。俺はゴーレムのコクピット周りに窮屈に座りながらレクチャーしてあげると、彼女はうんうんと素直に聞いていた。


「動かしてみよう」

「うん」


 アーリィーがアームレバーを握り動かすと、ゴーレムの腕が動いた。左側は俺が乗っているので、主に右腕で。


「動いた!」

「ああ、動いている。次は歩いてみようか」

「うん!」


 ペダルを踏み込み、最初の一歩を歩み出した。


「歩いてる!」


 可愛い……。アーリィーが目をキラキラさせて操縦しているのが、実に楽しそうで、俺の心が穏やかになる。


 作ってよかった操縦型ゴーレム! ……最初の目的とぜんぜん違うのだが、それは些細なことだ。


 一生懸命動かしている彼女にホッコリ。


 なお、今はコクピットが剥き出しだが、戦闘用の有人機仕様は密閉型にする予定。肉眼での確認はできなくなるが、魔人機に使われているマジックモニターを用いれば視界の問題はクリアできる。


 もうしばらく有人機仕様についてはテストを繰り返すが、とりあえず、フメリアの町にゴーレムが配備する。


 従来型のゴーレムではあるが、優秀なゴーレムコアを搭載しているから、そこらのゴーレムよりは優秀だ。


 町の門番に近衛騎士と共に2体のゴーレム。人が少なくても威圧感は充分だろう。


 他にも要衝にゴーレムを配置し、非常時の戦力とする。



  ・  ・  ・



 町の防備にテコ入れをした後、俺とベルさんはウェントゥス号に乗って王都へと飛んだ。


 目的は、王都冒険者ギルドである。


「とりあえず、ヨソで仕留めた魔獣でも戦果を認めてくれるか確認しよう」


 ボスケ大森林地帯で倒したモンスターの戦利品――ハンマーエイプ、ブラッドアリゲーター、ソード・ウルフ、ジャイアントスパイダー、アーマーザウラー、フォグラプトル……ああそうそう、ゴブリンとかオークとかオーガもいっぱいあったな。


「ギガントヴァイパーも忘れちゃいけないぜ」


 ベルさんが鼻歌でも歌い出す調子で言った。一番の大物である。


「ありゃ、他でも滅多にいないし、いたとしても討伐例なんてほとんどないから、どこで倒したもんでも、引き取ってくれるだろうよ」

「ギルドで有名になったらどうしよう!」

「はっ、わざと目立とうとしてるんだろうが」


 ガハハ、とベルさんが笑った。


 まあ、そうなんだけどね。ボスケ大森林地帯の強い魔獣とかレア素材をアピールするのが、冒険者誘致の布石でもある。


「まあ、目立つだろうし、騒ぎになるだろう」


 何せ俺は登録したてのFランク冒険者だからね。ボスケ大森林地帯のモンスターのランクを見れば、初心者に相手ができるようなものでもない。


 最大注目のギガントヴァイパーに至ってはSランク指定だ。


 ベルさんがフフンと笑った。


「事情聴取されるだろうな」

「お手柔らかに頼みたいね」


 Fランク冒険者がSランクのモンスターを倒せるわけがない。普通はそう考える。


「いざとなったら、助けてくれよベルさん」


 この魔王様は、人間を演じて連合国ではSランク冒険者となっている。俺と違って放棄していないから、使おうと思えば使えるんだよね。



  ・  ・  ・



 やってきた王都。その足で冒険者ギルドへ向かう。


 相変わらず暇そうにしている冒険者が休憩所兼酒場でたむろしている。受付カウンターではなく、フロア右手の奥にある解体場のほうへ行く。


 解体場は、自分で解体できない冒険者がモンスターを解体してもらうための場所だ。


 で、その解体場の入り口脇には、素材買取用の窓口がある。


 俺は声をかける。


「どうも、素材の買取をお願いします」

「どうぞ。……冒険者の方?」


 初対面だから確認だろう。俺はFランクの冒険者プレートを見せる。


「モノは何です?」


 眼鏡をかけた、いかにも事務職といった平凡な顔立ちの男性職員は言った。なおエプロンをしているが、血の跡がついてたりする……。


「ちょっとした大物です。ただ、ここだと、ちょっと狭いかも」

「奥へ」


 男性職員は親指を立てて、そちらを指し示した。――ピーノ! 受付を代わってくれ。


 その職員は交代要員を呼ぶと、俺たちを伴って奥へと導いた。


「特に解体するようなものを持っていないが、アイテムボックス持ちか?」

「ええ、そんなところです」


 収納の魔法道具として、レアではあるが有名なアイテムボックス。その手の持ち主とやりとりの経験があるのだろう。

 Fランク冒険者だから、疑われると思ったが、特にそういう素振りはなかった。


 解体場の中は倉庫のように広かった。机が並び、中には今まさに魔獣の死骸を解体しているところもあった。ちょっと血の臭いが漂っているのが、慣れない人には難点か。


「モノは何だ? 狼か?」

「もっとデカい奴です」

「どれくらいの広さが必要だ?」


 男性職員は言うので、俺は周囲を見渡し、やがて一点を指さした。眼鏡の職員は口元を歪めた。


「ドラゴンクラスと言うのか? いったい何を仕留めたんだ?」

「ギガントヴァイパー」

「なに?」


 聞き違いと思ったか、職員がマジマジと俺を見た。


「だから、ギガントヴァイパーですよ。Sランクモンスターの」

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