第58話、動かせるゴーレムを試してみた


 ダンジョンガーディアン。読んで字の如く、ダンジョンの守護者である。


 ダンジョンコアを守る番人。世間ではダンジョンボス的な位置づけで見られているが、ディーシー曰く『ダンジョンを守るモンスターは全てガーディアンだろう』だそうだ。


 彼女は様々な魔獣やモンスターを解析しては、自分の手駒として生成できるようにしている。


 当然、ゴーレム系のモンスターもそうだが、異世界知識のある俺がパートナーであるせいか、ゴーレムにさまざまな改装を加えていた。


 たとえば、先のハッシュ砦防衛で、ディーシーが投入したストーンゴーレム・キャノンタイプもそうだ。


 ダンジョントラップの自動砲台をゴーレムに組み込むことで、射撃能力を持たせたのだ。


 鈍重なゴーレムは機動力に欠ける傾向にあるが、飛び道具があるなら攻撃範囲も広くなるという寸法だ。防衛戦、進撃戦闘でさらなる活躍が期待できる一方、相手を追いかける追撃戦は相変わらず苦手である。


「ゴーレムは弄りがいがある」


 ディーシーはそう言ってはばからない。俺の影響も多分にあるんだろうな。俺も武器や装備の改造が趣味だったりするから。


「で、あれは何だ?」

「ストーンゴーレムに浮遊石を内蔵してみた」

「ほう……」


 俺はその浮遊石搭載ゴーレムを見上げた。


「足がない」

「浮遊しているのだ。足などいらん」


 ディーシーが鼻を鳴らした。


 いかつい上半身のストーンゴーレムだが、下半身は棒のような出っ張りが一本あって、先に言った通り脚部がない。


「まるでゴーストみたい」

「あんなマッチョなゴーストがいるかよ」


 ベルさんが言った。俺の近くでそれを見ていたアーリィーも「浮いてる……」と感心を露わにしている。


「ゴーレムみたいな重いものでも空を飛べるんだね……」

「飛空艇だって飛んでるぞ」


 ベルさんが突っ込む。俺は首を横に振った。


「飛空艇はともかく、あのゴーレムはただ浮いているだけだ」


 俺はディーシーへと視線をやった。


「浮遊石だけじゃなくて、推進装置をつけないと、あいつ、空中じゃ動けないぞ」

「それが問題なんだ」


 うーん、とディーシーが腕を組んだ。


「飛空艇用プロペラエンジンを小型化したものをつけようと思ったんだが……」

「どこまで小型にできる?」


 俺は否定的になる。


「あのゴーレムサイズじゃ、載せられるスペースがなさそうだ」


 背中に取り付けるにしても、オスプレイみたいな仕様になるのか? それともヘリコプター? 


「あるいは、風を噴射する魔法を仕込んだほうがいいかもな」


 それならスペースの面は解決しそうだ。浮遊石のおかげでクソ重ゴーレムの重量のことはさほど気にしなくていい。


 ただ、魔力の消費を考えれば、瞬間的加速はともかく、常時推進し続けるのは難しそうではある。


「背中か、あるいは腕につけて進みたい方向に向けられるようにするとか」


 浮遊して、腕を後ろに突き出して噴射――からの突進みたいな。ゴーレムのボディで体当たりとか、それだけで凶器だわ。


「……それかキャノンタイプのように空から一方的に攻撃するのもいいかもな……」


 空中浮遊砲台みたいな……。


 ゴーレムである必要はないが、制御システムとしてゴーレムコアを用いれば、あるいは。


 俺の脳裏に一瞬、ヘリコプターが浮かんだ。……いいかもな。地上の敵を掃討するのに攻撃ヘリは強力な兵器であるし。


「浮遊砲台か。悪くないアイデアだ」


 ディーシーは頷いた。何やら閃いたのかもしれない。


 さて、お遊びの時間はここまでとしよう。


「ディーシー。そろそろ課題のやつに取りかかろう」

「ふむ。魔人機の操縦システムを我なりに解釈してみた」


 魔法陣が地面に現れ、そこから新たなゴーレムが生成された。


 ストーンゴーレムである。がっちりした胴体に手足――


「頭が前過ぎね?」


 ベルさんがコメントする。正面から見ると、猫背のような印象を与えるが。


「後ろに人を乗せられるようにしたからな」


 移動するディーシーの後に俺たちも続く。背中がざっくりえぐれていた。正確には人が乗り込むスペースとなっている。むき出しの操縦席。シートはないが、操縦用のレバーやペダルが見えた。


「細かな調整はまだだが、魔人機の操縦機能を持たせた」


 大帝国が持ち込んだ全高6、7メートルの人型メカである魔人機。その操縦系統を丸々コピーしたおかげで再現できたシステムである。それがなければ、操縦できるゴーレムを作ろうという発想はなかったかもしれない。


「昇降用のステップは欲しいな」


 俺は浮遊魔法でゴーレムの後ろに乗り込む。立っているから、目線が高く視界が広い。


「開放感があるな」

「戦場じゃ、真っ先に狙われるぞ」


 ベルさんが器用にゴーレムの体を登ってきた。剥き出しのコクピットゆえ、視界と開放感を引き換えに、操縦者の防御は皆無。


「作業用メカとして考えるなら、ありかもな」


 雨除けくらいは欲しいかもな。俺は操縦桿とおぼしき二本のバーに触れてみる。これでフットペダルを――


「ディーシー、やっぱ椅子が欲しい!」


 フットペダルも使うとなると、座席なしは無理がある。仮にフットペダルなしだったとしても、歩行で相応に揺れるだろうしな。


 そんなこんなで試行錯誤。操縦についてディーシーのレクチャーを受けつつ、俺はゴーレムを動かしてみた。


「おーおー、動くぞ、コイツ」

「凄いっ!」


 アーリィーが声を弾ませて、俺の動かすゴーレムの横を歩く。


 ズシンズシンと重量感がハンパない。さすがストーンゴーレムだけあって、その歩行速度は人間の足でも追いつけてしまうのだが、動かしているという実感で俺の感覚は麻痺していた。


「クソ遅ぇ」

「言うなよ、ベルさん」


 ゴーレムでこれなら、鹵獲した魔人機ではどんな感じだろう。やべぇな、そっちも早く弄りたいもんだ。


 異世界でロボットパイロットとかマジかよ。これは趣味の世界だ。

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