第56話、足らぬ足らぬ、人が足らぬ


 コート鉱山一帯の魔力を使って、比較的魔力消費の少ない鉄を生産。それをコボルトを使ってコバルトインゴットに変換。そのコバルト金属を使って、ドワーフたちが商品を作る。


 後は商品を売れば収入になる。売り上げは関係者ならびに製作者の給料となり、その一部が税金として領主に納められる。


 そして領主は領の発展のためにお金を使う。領民にもお金が周り、生活費や買い物、税金などで循環する。


 金は天下の回りもの。そうでありたいし、そうであって欲しいものだ。


 さて、俺たちはコート鉱山にダンジョンクリエイト機能を使って魔力収集所を作った。


 収集した魔力の極一部を鉄の生成に利用する。元はミスリル埋まっていただけあって、魔力は比較的豊富。大地の下を通って魔力が流れてくるので、少量の消費ならば将来的なミスリルや魔法金属生成にさほどの影響を与えない。


 とはいえ、いきなり大量に生成したり、消費の大きなミスリルを作ったりすると、魔力不足を引き起こすので、ほどほどが肝心だ。


 では何もしなければその分回復が早くなるのでは、という意見もある。が、大地も魔力を一度に吸収できる量がおおよそ決まっている。それ以上は大気中やその周辺環境に放出されてしまうのだ。


 それが一カ所に留まると吹き溜まりになり、やがてはダンジョンだったりモンスターが発生したりする。


 よって、今回のような魔力収集所を作ることは、その土地の魔力量を制御することに繋がり、モンスターの発生を抑える効果も期待できた。


「さて、せっかくのコバルト製品も、売れないと意味がない」


 フメリアの町の領主館。その会議室に俺たちはいた。俺、ベルさん、ディーシーと、アーリィー、ブルト隊長、オリビア副隊長という顔ぶれだ。


「まずはコバルト製の武具の有用さを認知させる必要がある。いい武具なのは見る人が見ればわかるけど、普通の人間にはインパクトがない」


「と言うより、そもそも知名度が低い」


 ベルさんが小首を傾けた。


「使ってみせるのが一番だけど、そこでもうひとつ――」


 俺は議長席に座らせたアーリィーを見た。


「反乱軍を討伐した王国近衛軍も使っている装備と宣伝する」


 いわば、一般的に王族警護の近衛隊はエリートと思われている。その精鋭が使用している武具と聞けば、悪い装備ではないと思うのが普通だ。何より王族の盾である近衛隊である。箔がつく。


 控えていたオリビアが自然と背筋を伸ばした。近衛隊に魔法金属製装備と聞いて、少し期待したのかもしれない。


 アーリィーは少し考える。


「そのコバルト装備はこれから近衛にも配備するんだよね? しないと、嘘になっちゃうよ?」


 王国近衛軍が使っていないものを使っていると言えば詐欺である。商売をやる上で、嘘はよろしくない。


「もちろん。現状、ルーガナ領に来ている近衛隊は、アーリィーの警護の他にこの領地の守護もしないといけない」


 コバルト金属製新装備を身につけて任務に当たってもらいたいね。


 ブルト隊長が挙手した。


「装備の購入費用はいかがいたしましょうか?」

「前領主から没収した資金を使いましょう。領地の防衛費だ。これはどのみち必要なことですから。……なんだい、オリビア副隊長」

「はい。領地の防衛ですが、そもそも増援なき今、人員が足りません」


 アーリィーについてきた近衛隊は20名。ここフメリアの町の警護だけで手一杯である。


「現状、ハッシュ砦やコート鉱山周辺は、俺たちウェントゥス団のシェイプシフター兵が守備している」


 確かに人数が足りないな。もっとも、守るべき領民もフメリアの町とコート鉱山村くらいしかいないのだが。


「今後の発展を考えれば、兵が欲しいところだが……ブルト隊長?」

「王都軍からの増員はないようです」


 近衛隊長は目を閉じた。


「我らだけでここを守備しなければなりません」

「冷てぇな、王様は」


 ベルさんが鼻を鳴らした。オリビアが眉間にしわを寄せる。


「ベル殿、その発言は――」

「不敬ってか? 誰が王様にそれを知らせるってんだ? 文句があるなら、王様がここへ来い」


 フンと鼻息も荒い黒猫様である。アーリィーが申し訳なさそうな顔をしている。彼女にとっては、実の父親だもんな。


「まあ、俺たちはしばらくここにいる」


 俺は変な空気にならないように気をつかう。


「隣接するボスケ大森林地帯からのモンスタースタンピードが発生しないように、間引きもやっていくけど、それとは別に領の防衛戦力を底上げしたいね」


 大森林地帯のモンスター間引きというのは、反乱軍戦力構築のための魔力収集や秘密基地の建前だけど。


「うちのシェイプシフター兵のほかに、ゴーレムを近衛隊に貸与しようと思う」


 俺はディーシーを一瞥する。会議に関心がないのか、適当に視線を彷徨わせていた彼女は俺を見て頷いた。


「門番にでもするのか?」

「お前の生成したゴーレムが優秀であるのを見せてやれ」


 ディーシーならダンジョンガーディアンとしてモンスターを生成できるが、まあ住民を怖がらせないためにゴーレムがベターだろう。変に狼やリザードマンとか出したら、怖いだろうし。


「あ、そうだ、ディーシー。鹵獲した魔人機の操縦システムを応用してゴーレムにも搭載できないかな?」


 つまり、操縦できるゴーレムだ。2.5メートルくらいのゴーレムを直接操縦できたら、気分はパワードスーツってか?


「操縦できるゴーレムか……ふむ」


 ディーシーは片方の目を閉じた。


「とりあえず、作ってみる」

「近衛騎士でも扱えたら、オーガとタイマンできるんじゃないかな」


 ぶっちゃけ、俺やベルさんなら問題ないけど、他の面々がね……。


 俺たち不在でも守りきれる戦力の整備って、やっぱ大事だ。俺たちがいないから全滅しました、ってのが洒落にならん。


 ブルト隊長が口を開いた。


「本来なら、ボスケ大森林地帯のようなモンスター発生地帯の間引きは、冒険者の仕事なのですが」

「仕方ないですよ。ここに冒険者ギルドはないですから」


 あれば、領主であるアーリィーにとっても防衛戦力を割かれずに済む。……そうか。


「冒険者を誘致しよう」


 俺の発言に、皆が目を見開いた。

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