第42話、魔人機を解析してみた


 フメリアの町の復興作業は、住民たちの手で行われていた。


 必要な物資、食料などはルーガナ伯爵が貯め込んでいたものを放出することで、俺たちはアーリィーの負担にならないようにやっている。


 住民たちは衣食住が提供され、もっぱら制圧している王国軍――アーリィーには好意的だった。


 さて、俺とベルさん、ディーシーは巨大な倉庫にいた。


 目の前には、大帝国製と思われる人型兵器――魔人機がある。


「角付きがカリッグ。案山子みたいなバケツ頭はドリドールというらしい」


 そう。この倉庫には、町の攻略戦で俺たちが破壊した魔人機が回収されていた。


 もっとも、俺とベルさんで、ほぼ全機壊したから、ひとつとして無傷なものはない。

 だが、例えば膝関節だけ壊して動けなくした機体とか、胴体を分断したものとか、ぶっ壊れた機体も全部集めれば、部品交換で修理できるようにはなっていた。


 そして一通り部品が揃っているなら、しめたもの。ダンジョンコアであるディーシ

ーに解析させればいい。


「まあ、再現するには代償となる魔力がかなり必要になるがな」


 ディーシーは、カリッグとドリドールを1機ずつ解析する。


 その様子を見ながら、俺は適当な紙を広げて書き書き……。


「大帝国が魔人機を量産して戦線に投入しているのを俺たちは知っているからな。ここで機体を回収できたのは僥倖だ」

「こいつをこっちで使うってのかい?」


 ベルさんが俺のところにやってきた。


「大帝国に対する反乱軍を作るっていうなら、魔人機に対抗できる兵器はあったほうがいいだろう?」

「オレからしたら、魔人機なんて木偶の坊だったぜ」

「そりゃ、ベルさんなら、生身でも魔人機に負けないだろうさ」


 俺は苦笑する。魔王様の基準で考えてはいけない。


「でも一般人には、魔人機に対抗するのは無理だからな。俺たち以外の人間には必要だ」

「人を雇うのかい?」

「どうかな。今後、俺たちの反乱軍がどうなるかわからないけど、大帝国と戦おうという者たちと共闘するかもしれないし」


 俺は書いた画をベルさんに見せた。


「それに、人型ロボットに乗るって男の子の夢でもあるんだぜ」

「へぇ……。何かよくわからんが、格好いいな。魔人機か?」

「独自に魔人機を作る。俺専用機!」


 元の世界にいた頃のミリタリー系ロボットアニメとかに出そうなデザインで画いてみた。メカや兵器のイラストは個人的な趣味で書いていたんだ。


「専用機か、それも悪くないな」


 ディーシーが解析をしながら言った。


「我も護衛用に、魔人機でも作ろうかな」

「おっ、ディーシーのオリジナルも興味あるんだよな」


 俺が言えば、ベルさんは首をひねった。


「でもこいつの守護魔獣なら、魔人機スタイルのゴーレムなんじゃね?」


 ディーシーなら自分で操縦せず、ゴーレムのように自動で動くように設定しそうだ。自身のダンジョンにモンスターを生成するように、専用のカスタマイズがされてそうだ。


「ベルさんは興味ないのかい?」

「オレは、生身が強いからな」


 黒猫姿で魔王様は言うのだ。


「少なくとも、ここで戦った程度なら、なくても平気だ」

「専用の改造をするぞ」


 俺は、紙の余白に新たな魔人機を書き込む。


「魔王様の専用機らしく、重厚な装飾をするのもいいな。言ってみれば鎧だ。そうだ、こいつに浮遊石を積んだら空を飛べたりしないかな。翼もつけちゃう」


 ベルさんの暗黒騎士姿を、ロボットっぽく描いて、背中に悪魔めいた翼を付け足す。


「操縦席から、ベルさんの魔力を機体の腕に流して破壊魔法を放てるようにしたら最強じゃね?」

「……フフン」


 ベルさんはニヤリとした。


「鎧かぁ。そういう考えなら、これも悪くない」


 相棒が乗り気になったところで、俺は付け加える。


「反乱軍のために、魔人機をある程度量産できるように設計をいじるが、俺たちの専用機は、せっかくだから魔法をガシガシ使えるようにチューンナップしよう」


 ついでに武器も新調しよう。カリッグもドリドールも、近接武器しか持っていないから、飛び道具があれば有利になるだろう。


 魔人機サイズとか考えると、巨大な魔法杖を作るとか、そこから魔石銃にしたり……ああ、8センチ速射砲を改造してライフルにするってのもありだな。


 速射砲といえば、敵が魔人機を投入してきた時のために、対魔人機砲とか、あるいは戦車を作って装備させる手もあるな。

 仮想敵が使用する兵器に対抗しようとすれば、そうなる。


 まあ、手軽なのは、対戦車砲とかロケランだろうな。普通の歩兵が携帯できる使い捨てロケットとか。

 魔人機とか戦車とかなくても、市街戦など地形を活かせば、一般兵でも戦える武器……。


「おーい、ジン」


 ベルさんの声に、俺は我にかえった。どうやら考えに没頭していたらしい。


「やることはいっぱいあるな」

「主、解析が終わった」


 ディーシーが顔を上げた。


「魔力さえくれれば、カリッグだろうがドリドールだろうが、生成できるようになったぞ」

「でもお高いんでしょう?」


 そこらのモンスターや武器を作るのとは桁が違うだろうな。


「当たり前だ。でもまあ、飛空船を生成するよりは少なく済む量だ」

「はっ、1機作ったら、ほぼ魔力切れじゃないかそれ」


 俺は一般人より魔力量は多いらしいが、『死ぬぞ』と脅された飛空船よりは、というレベルだとポンポン生成できない。


 魔王であるベルさんくらいでないと、一挙に複数は無理だな。そのためにも――


「魔力が豊かな場所に拠点を作らないとな」

「お、じゃあいよいよ」

「ボスケ大森林地帯とやらに行こうじゃないか」


 そこにある豊富な魔力資源を利用するためのダンジョンを生成する。ついでに、反乱軍用の秘密基地でも作ってしまおうか。


 魔人機や飛空船を収容できる基地作り……ワクワクしてきたぜ。

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