第40話、町の復興支援
せっかく前領主がヘイトを引き受けてくれたのだ。多少よい目を見せてあげれば、好感度も上がるというもの。
やってきた征服者に戦々恐々としていた民たちも、アーリィー王子が緩やかな政策をとったことで、反発心は薄れ、従ってくれている。
ルーガナ伯爵が貯め込んでいた食料や物資を提供することで、住民たちはひとまず飢えることはない。
「後は町の復興か」
俺は中央広場にいて、ディーシーに指示を出した。
「まずは瓦礫を撤去」
「ん」
ディーシーが空中に浮いたホログラフィック的スクリーンを操作すれば、崩れた家屋の残骸が消えた。範囲内のそれを片付けていけば――
「ずいぶんとさっぱりしたな」
「すっごい……!」
アーリィーが俺たちの作業を見て驚いた。
「これも魔法なんだよね?」
「ああ、我にかかれば容易い。もっと褒めてもいいぞ」
調子に乗るディーシーさん。
「主、立てる家は?」
「簡単なやつでいいよ」
豪華なものを作ると魔力の消費が跳ね上がるから、簡単な作りのブロックハウスで消費を抑えよう。
「ひとまず、サンプルを」
ダンジョンクリエイトを使い、ブロックハウスを魔力召喚。箱庭ゲームにおける某豆腐ハウスのような四角い建物が、瞬時に建てられた。
雨風が凌げれば当面は問題ない。家具がほぼない状態だから、一部屋しかなくて手狭でも数人が収容できる。
現代人的プライバシーはないが、そもそもこの時代の庶民の一般家庭は個別の部屋はなくて、雑魚寝が基本だから大きな問題はないだろう。
拡張したければ材料集めて家を増築すればいい。横に繋げても二階を作ってもいい。そのための四角い家だ。
「おおっ!?」
様子を見守っていた住人たちが目を丸くする。アーリィーも感嘆する。
「一瞬で家ができちゃうなんて!」
「その代わり、魔力を食うがね」
俺はストレージからルプトゥラの杖を一本取る。本来は武器なんだけど、使い捨てだから複数本を所持しているのだ。
「ディーシー、魔力はこっから持っていってくれ。さすがに必要な家の数建てるのは俺の魔力だけではきつい」
「ベルさんを残しておくべきだったな」
あの魔王様の魔力は無尽蔵である。この手のクリエイトに払う魔力も使い放題だったりする。
「仕方ない。ベルさんには、ルーガナ領の他の町の制圧を頼んだんだから」
そんなわけで、今この町にウェントゥス号はない。ベルさんとスフェラ、シェイプシフター兵に近衛騎士の半数が、領内を回っている。
俺はディーシーと町の復興支援中だ。
「ところで」
アーリィーが俺の傍らの席に、ちょこんと座った。
「ボクはここにいればいいの?」
「ああ、そこにいてくれ」
俺がちら、とディーシーを見れば、彼女も小さく頷いた。こっそり、アーリィーから魔力を吸収中。彼女は魔力の泉という魔力回復能力を持っていて、多少の魔力消費を素早く回復させてしまう体質である。
「座っているだけだよ?」
「それが大事なんだ」
「何もしていないよ?」
「王子様はどんと控えているものなんだよ」
君がそこにいるだけで、町の復興の魔力の足しになっているのだ。
「大貢献しているよ、アーリィーは」
「そうなのかな……」
いまいち実感がわかないのは俺が説明しないせいだろう。いっそ話してあげるべきかな……。うん、そうしよう。黙って魔力を使ってるのも悪いし。
「アーリィー、君には魔力の泉っていうスキルがあるんだ」
「魔力の泉……?」
怪訝な顔をするアーリィーに、俺は説明をしてあげる。
「君には魔力回復の才能があるんだ。偉大な魔術師にもなれる才能がね。で、黙ってて悪かったが、君のその魔力を使わせてもらってる」
「そうなの?」
「アーリィーの魔力を幾らか使って、仮設住宅を作っているんだ。そこの家も、あの家も、この家も、君とディーシーの魔力で建っているんだよ」
「ボクの……魔力」
アーリィーは自分の手を見つめる。別にそこから魔力が放たれているわけではないが、彼女はその手を閉じたり開いたりしている。
「黙っていてごめんな」
「え……? あ、ううん。それはいいの。ボクの魔力が復興の役に立っているんだね?」
「大活躍だ」
「そうか……」
アーリィーはうつむいた。どこか顔が赤く見えるのは照れているからかな?
「ボクも、役に立っているんだね……」
ぽつり、と漏れたその言葉。彼女のヒスイ色の目には涙が浮かぶ。
「何もできないボクも、人の役に」
「わあ、泣かないで、王子様」
俺は慌てて、彼女の前に膝をつくとその手を握った。
「つらかった。ずっと、何の役にも、立てないこと、が……」
「……うん」
慰めの言葉が浮かばなかった。住民たちは建てられた家に注目していて、王子が泣いているのに気づいていない。人前で王子様が泣くのはアレなので、いまはむしろ助かる。
「アーリィー……」
「ずっと、ダメな王子だった」
アーリィーは鼻をすすった。ここが外であるのを思い出し、これ以上泣くまいと我慢するように顔を上げる。
「あなたたちのおかげで、ようやく、少しだけでも役に立てて――」
目は真っ赤だ。こらえようとしてもこらえきれない。
「こんなお飾りなボクでも役に立てて……嬉しい。ジン、ボクはもっと役に立ちたい。だからボクの魔力でも何でも、ドンドン使って」
ん、いま何でもって言った? というのは置いておいて、俺は彼女が浮かべた笑顔に心を奪われた。
苦しかった思い、自分でも人の役に立てて心から嬉しいという思い。それが伝わって、目頭が熱くなってきた。
何ていじらしい。可愛すぎだよ、王子様!
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