第9話 巫女祭りの話(2)
夏のど真ん中、今日は8月10日。お盆休みの真っ最中。
俺が働いてる工場は、大手の自動車会社に部品を卸してる工場だから、自動車会社と同じような休みになり、結果、長期連休が10日以上になるなんてざらだ。
休みも4日以上になってくるとすることもなくなって暇だ。
かたや彼女は看護師で休みが不定期だからこういうときに遊びに連れてけとせがまれると、めんどくさくても連れていこうという俺の優しさ。
「ねぇー!見てみてみて!」
年下彼女が薄い水色の浴衣を着てテンションが上がってる。可愛いなぁ。
リア充もいいもんだわ。
近寄ってきた陽奈を見て、首を傾げる。
左手に綿飴もってはしゃいでるのはわかる。右手に持ってるの何?亀?
その右手に持った物を突き出して、陽奈は自慢げに
「ジャジャン!!!」
ジャジャン、じゃねーよ。
「なんで亀なんだよ!そこは金魚だろ!」
「だってー、私にウルウルお目々を見せつけて、救ってください!って 叫んでたよーに聞こえたんだもん!それに亀じゃない、カメックスだよ!」
「カメックスってなんだよ」
「この子の名前」
「まんまじゃねーか!返してきなさい。亀は臭くなるからダメ!。」
普段誰が掃除してると思ってんだよ小娘が。
「ちゃんと飼うからー」
そういうやつが速攻で飽きて、結局お母さんが世話することになるんだよ!?
あれ?
俺、お母さん??
「今は体長5センチくらいかもしれないけどな、そのうち20センチ以上でかくなったりするんだぞ?飼える自信あるのか?ん?」
「そんなに大きくなるの!?」
「なるぞー、臭いぞー。世話大変だぞー。うんこでかいぞー。」
「んーーーー。返しますぅーーー。」
膨れっ面もまぁ可愛い事。
それに、今日来た祭りは「巫女祭り」とか言って、この辺りじゃちょっと有名な祭りらしく、名前にちなんでみんな浴衣みたいな巫女服だったり、
あれはマジの巫女服なんじゃね?みたいなのだったり、ガッツリコスプレしてる可愛い子がわんさかいて・・・
「いやーこれはもう眼福の極みですな。」
「スマホの写真メモリー足りますかなーぬふふふふ。」
「一生ここに住んでいたいですなー。」
みたいなキモさ全開の会話を1人でやりながら頬を緩ませ酒を煽っていたら
陽奈の蹴りを食らった。
「痛ってーな。なんだよ!」
「他を見すぎなんだよ変態オヤジ!」
「いいじゃねーか!そこらじゅう巫女ばっかりなんて男の夢だ!」
「死ね!」
なんてギャーギャーやりながら屋台を巡る。
つまみとビールがこの蒸し暑い夜に清涼な冷やしをくれる。そして周りにいるコスプレ女子が俺に生きる英気をくれる。
あぁ、巫女祭り最高!!!!!
・・・
・・
・
「うぇぇぇぇぇぇ」
やがて飲みすぎた俺は完璧に悪酔いし、あっというまに限界突破してしまった。
やらかした。
「うぇ、気持ち悪い。」
「調子に乗るなってあれほど言ったでしょ!?ここからじゃトイレも遠いし、
しょうがないから林の奥に行くよ!どうせもう吐くでしょ?顔が死んでるわよ!?」
「しーましぇん。」
「んもう、情けない声だして。おじさんなんだから無理しないの!」
陽奈に説教されながら、どうにかこうにか林の奥までたどり着いた。
と同時に、胃からいろんなもんがこみ上げてきて、目の前の大きな岩に向かって盛大に吐き散らかした。
「うぅぅぅぅぅ、気持ち悪い。」
何度かの胃の逆流の後、ようやくちょっと落ち着いたと思って、後ろにいた陽奈に水を貰おうとして
「陽奈ー、水ー」
・・・
・・・
・・・
と言ったが返答がない。ただの屍のようだ。
「陽奈ーーー?」
振り返ると陽奈は固まっていた。
「陽奈?」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
ん?なんだ?さっきまであんなに祭囃子で賑わっていたのに、全ての喧騒が消えてる?
「・・・・・止まってる?」
酔った頭をフル回転させて考えても、この状況、全く理解出来ない。
どうしようかと頭を抱えた時、ふと声が聞こえた。
「貴様、妾に何をしてくれたかの?」
声が聞こえた方を見ると、ちょうど吐いた岩の上に、大人のお姉さん?みたいなのが座ってた。
・・・?
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