第601話 飛ばされた杉本

アマテラスによって飛ばされた杉本はティエラ連邦レックス領に辿り着いていた。

「ここはどこなんだ・・・」 

見知らぬ街、誰も知り合いがいない状態に不安になる。

「くそっ、ヨシノブの奴!客の私に何て真似をしてくれる!!日本に帰ったらこのことを追求しなくてはいけないな!」

杉本は怒りのあまり足元に落ちていた石を蹴る。


すると目の前にいた騎士の兜に命中する。


「なんだ、お前は!騎士に何という真似をしてくれる!」

「違います!私ではありません!」

「お前以外に誰がやったと言うんだ!」

「そ、それはその・・・」

杉本は周囲を見回すが自分以外に誰もいない。


「騎士の頭に石をぶつけるとは覚悟はいいんだろうな?」

「ま、待ってください、私は他国から来た使者なのです。」

「はぁ?一人しかいないのに使者だと?」

騎士は訝しげに見る、しかし、杉本が着ているスーツはこの世界に無いものであり、身なりだけ見るとしっかりと礼装になっているように感じる。


「・・・使者と言うならなぜ一人で歩いている。」

「と、突如、飛ばされてしまいまして、使節団と逸れてしまったのです。

ですが、私を保護していただけたら我が祖国が必ず厚い御礼いたします。」

「お前の国の名前は何という?」

「日本です。」

「日本・・・どこかで聞いたことがあるような。」

ルーカス商会を通して販売されている商品の事をヨシノブがたまに日本製品と呼ぶために口コミレベルではあるが日本の名前も広がりつつあった。


騎士は何処かで耳にしたぐらいの話ではあるが本当なら外交問題になる。

判断に迷った騎士は主であるレックスに確認を取ることを選択するのだった。

「貴殿の言葉が本当かどうかわからんが、主君に取り次いでみよう。

私について来るがいい。」

「ありがたい。」


杉本はレックスの元に連れて来られる。

「貴殿が日本という国からの使者か?」

「まずはお詫びを、私は直接この国に使者として来たわけでは無いのです。

不幸な事故によりこの地に辿り着いてしまったのです。

ですが、私は祖国では国の運営に関わっていた身分なのです。

必ずや私を迎えに来るはずですので、それまでこの地に、滞在させてもらえませんか?」


「ふむ・・・わかった、貴殿を客として迎えようではないか。

ただ、貴殿の国の事について教えてもらえないだろうか?

私は不勉強な為か、日本という国をよく知らないのだ。」


「日本は遠い国ですからな、知らないのも仕方ない。

まず我が国は文明が栄えております、そうですね・・・これを見てください。」

杉本は腕につけている高級腕時計を見せる。

「これは?」

「我が国で時を計る物です。」

「時を計るのか?」

「そうです、我が国ではこの針が回る時が統一されておりまして、何処にいても皆が同じ時を共用するのです。

これにより、同じ時に動く事が可能になるのです。」

「ふむ、よく見せてもらっても構わないか?」

「どうぞ、よくご覧ください。」

杉本は腕時計をレックスに渡す。

レックスにしては針がどうやって動いているのかわからないが秒針が同じ速度て動いていることだけが理解出来た。


「いや、私の知らない物だ、全くどうやって動いているのかわからない。

だが、これが精巧な物だということは解るつもりだ。

日本ではこれが作られているのだな?」

「ええ、勿論これだけではありません、この国の誰もが見たことの無いような物が多数ございます。」

「貴殿が祖国と連絡がつけば、それらの商品の輸入もできるのかな?」

「この程度で良ければいくらでも取り寄せる事が出来ます。

値段交渉につきましては私が祖国に口をききますので、恩に報いたそれなりの予算になることをお約束します。」

「貴殿はそれが出来る身分ということか。」

「勿論です。」


レックスは杉本の保護することを決めたのだった。

杉本一人を保護するだけで日本製品をしかも格安で輸入出来るようになるのなら好都合だったのだ。


ヨシノブと杉本の関係をレックスはまだ知らなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る