第564話 命の恩人

「え、えーと、あなたは?」

振り返ったリリルは立っていた少女に話しかける、見たところ良いところのお嬢様のようだが、リリルの知り合いにはいないように思われた。


「私ですよ、4年前カイナ村でゴブリンに攫われそうになっていたところを助けていただいた、ローザです。」

「カイナ村・・あーあったわ、でも、貴女そんな良いところのお嬢様だったかしら?」

リリルが記憶に残るのは貧しい農家の少女だったはずだ、少なくとも王都に来て奇麗な服を着ているとは思えなかった。


「助けて貰った2年後に親に売られまして、それから色々あって、今のおとうさんに助けて貰って、今の私があるんです。」

ローザからは今の保護者を慕う気持ちがリリルにも伝わってきた。


「そう、いいお父さんが見つかったみたいね。」

「はい、最高のおとうさんです。」

ローザは満面の笑みを浮かべる。

その反面、リリルの表情は暗い。


「どうかなされましたか?

浮かばれない表情ですが?」

ローザは暗い表情のリリルを気にする。


「なんでもないわ、少しだけ困った事になっているだけよ。」

「ねえ、リリル、この子に相談してみない、見たところ良い家みたいだし、仕事が貰えるかも。」

パナスとて売春婦になりたくない、ダメ元でもすがりたい気持ちであった。


「ちょっとパナス、いくらなんでも迷惑になるでしょ。」

リリルは気が乗らない、ローザの表情を見る限り良い人なのは間違いないだろう、だが養っている子が面倒事を持ってきたら、ローザへの愛情が薄くなるかも知れない。

たとえ自分が売春婦になるしか無くとも、ローザの立場を悪くしたくなかった。


「あの?お仕事を探しているのですか?」

「大丈夫よ、なんとか・・・」

「はい、探しています!」

リリルが断ろうとすると横からパナスが口を出してくる。

「ちょっとパナス、あの子の迷惑になるでしょ!」

「リリル、そんなこと言ってる場合じゃないのよ、このままじゃ私達破滅なんだよ。」

二人の言い合いから何かしらの事情があるとローザは察する。


「あのお仕事をお探しならお屋敷に来ますか?

おとうさんなら雇ってくれると思います。」

「えっ、いいの?ローザちゃん貴女の迷惑にならない?」

「おとうさんやおかあさん、あと家族に敬意さえ持っていただいたら大丈夫ですよ。」

「そりゃ雇い主に敬意は払うのは当たり前だけど。」

「それなら大丈夫ですよ。

お仕事を探しているのはお二人ですか?そちらの男性の方もですか?」

「俺もいいのか?見ての通り片腕だぞ。」

「いいと思います。おとうさんは優しいですから、腕が1つ2つに無いぐらいで追い出したりしませんよ。」

「いや、腕は2つしかないのだが・・・」


「善は急げですね、このままお屋敷に向かいましょう。

何かお荷物はありますか?」

「いや、無いよ、このまま向かわせてもらってもいいかな?」

「はい、では皆さんついて来てくださいね。」

ローザは3人を連れて屋敷に帰るのだった。

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