第610話 亡くなった者の使者
時間は少し戻り、結婚式の前、アランの元に客が来ていた。
クオムはヨシノブに謝罪をするため、仲介を頼みに訪れていたスコール公爵邸にてジャミが討たれた事を聞く。
「ジャミ様!なんと・・・」
クオムは大粒の涙を流し絶叫するのだ、その姿を見たアランも同情する。
そして、悪い事は続く、レックスがジャミが行った、火山の噴火の対応の悪さを指摘して、ジャミを派遣した連邦の首脳陣を告発、長年中央の横暴と権力闘争に明け暮れ、地方を無視したやり方に反旗を翻したのだ。
「こうなれば、私もすぐに帰国しジャミ様の仇をとってみせる。」
クオムは復讐に燃えるのだった。
「クオム殿、私としても援護をしてあげたい所だが、生憎、先の戦で軍の大多数を失ってしまった、不甲斐ない当家を許してもらいたい。」
アランは同情から援護をしたいと思うが、スコール公爵家の私兵は現在再編成中であり、動かす事は出来なかった。
「お心遣い感謝致します、我が主ジャミもそのお気持ちだけで充分にございます。」
クオムは感謝を告げ、至急帰国しようとするが、クオムの力だけでは復讐を果たせないのは明らかだった。
「クオム殿、ここはヨシノブさんに力を借りてはいかがでしょうか?
あの方は心優しき御方、クオム殿の気持ちを聞けば力になってくれるでしょう。」
「しかし、謝罪をしなければならない相手にそこまで願うのは・・・」
「ヨシノブさんを刺したのはミーユであり、その彼を奪還して配下に加えたのはレックスでしょう。
それなら共通の敵とも言えるのではないでしょうか?
当家としてもヨシノブさんにお願いしますので、一度お会いになられては?」
アランの説得もあり、クオムはヨシノブの元に向う事にする。
結婚式が終わったあと、アランがフレデリカを通して、ティエラ連邦の使者クオムが面会を申し出て来たので俺は対応することにした。
「まずは当時ティエラ連邦に所属していた者がヨシノブ様を傷つけた事を深くお詫びします。
そして、これが我が主ジャミ様からの親書にございます。」
手紙を差し出した時、クオムの目から涙が流れていた。
「クオムさん、どうしました?」
俺はいきなり泣き出したクオムに驚く。
するとフレデリカがクオムの代わりに答えてくれた。
「この方、クオム様の主、ジャミ様はクオム様がこちらに来る前にレックスというものに殺されてしまったそうなのです。
ですのでその手紙が最後の命令になったそうなので・・・」
「わかった、じっくり読ませてもらおう。」
俺はクオムの想いもくみ、手紙を読む、内容は深い謝罪と賠償金を支払うこと、そして、願わくば友好を持ちたいとの事が書かれてある。
「主を亡くして涙する、クオムさんの気持ちを汲み謝罪を受け入れます。
また賠償金は不要です。
死して部下が涙出来るほどの忠誠を得られる方と友好を持ちたかったと思います、今はジャミさんの冥福を祈りましょう。
そして、クオムさん、この手紙は遺品としてクオムさんがお持ちください。」
俺は手紙を返す。
本来俺が持つべきなのだろうが、遺品となってしまったことを考え、クオムに返すことにした。
「ご配慮、ありがとうございます。」
クオムは再度涙する。
「ヨシノブ、話はそれだけではない。」
アランは俺を刺したミーユの行き先、ジャミが死ぬ経緯、レックスの反逆などティエラ連邦の状況を詳しく説明してくれる。
そして、クオムを援護出来ないかと聞いてくる。
「なるほど、俺を刺した奴をレックスが助けて部下にしたと・・・
わかった、この話受ける。
クオムさんすぐに国に戻り、俺が援軍に向かえるように準備してもらえますか?」
「よ、よろしいのですか?アラン殿に願っておりましたが、流石に厚顔な願いかと・・・」
「ジャミさんの事はよくわかりません、ですが、レックスの騙し討ちは気に入りませんし、何より自分の復讐もありますからね。」
「ありがとうございます、ありがとうございます。すぐに手筈を整えます。」
俺はティエラ連邦の内乱に自ら突入していくのだった。
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