第542話 モトキの裁判

出来上がった剣を持ってカルラはマックスを訪ねる。

「マックス様、先日は素晴らしい贈り物をありがとうございます。

こちらはおとうさんからの御礼の品にございます。」

マックスはカルラが持ってきてくれた剣を手にする。

「おお・・・これは素晴らしい。

見事なできだ・・・

このような剣を頂いてもいいのだろうか?」

「はい、是非お受け取りください。

武勇にて前線にたつマックス様なら必要な物だと思いますので、この剣で国民の皆さんをお守りください。」

カルラはニコリと笑う。

マックスはそれだけで感激していた。


「カルラさんが用意してくれた剣・・・

ありがたい、今日からこいつを我が愛剣としよう。」

マックスは今まで使っていた剣をしまい、カルラが持ってきてくれた剣を腰にさす事にするのだった。


カルラがヨシノブの屋敷に帰ったあと、マックスは溜まっている職務を片付け始める。

それにはモトキの裁判も含まれていた。


剣を貰い上機嫌なマックスだったが、カルラに悲しそうな顔をさせたモトキを許すつもりは欠片もなかった。


私怨に満ちた裁判官が行う裁判は結果が見えていた・・・

「お前が行なった罪の重さがわかっているのか?」

「裁判官殿、私に悪意があった訳では無いのです、ただ部屋にあったアクセサリーを売っただけなのです。」

「部屋にあっただと!!カルラさんの部屋に入ったのか!!俺も入った事が無いのに!!」

マックスから嫉妬の炎が立ち上る。

当然誤解なのだがこの場に指摘する者はいない。


「はぁ?何の話をしているんだ?」

モトキは困惑していた。

自室にあったものを売っただけなのにこの裁判官は何を怒っているのだ、モトキの理解の外で裁判は続く。


「被告は女神の領域に侵入し、その匂いを堪能した挙げ句、女神が身に纏いし宝物を奪い、粗相をした上で宝物を売り払った。

異論はないな?」

「はあ?何の話だ、異論どころか意味もわからない?」

「被告は罪の重さを理解しておらぬようだ、無知は罪とも言える、さらに罪を犯すとは余程重き罰にあいたいようだな。」


「ま、まて!せめて解るように話してくれ!」


「愚か者に語る言葉は無い!

被告の罪は明白である。

よって死罪を申し渡す!

被告、及び弁護人何か言うことはあるか?」

モトキにも一応だが国から弁護士がつけられていた。

彼は金で弁護士を雇えない者の為に国に雇われている弁護士であり、自身で弁護士を雇えない者の為に弁護をすることになっていた。


「裁判官、かの者が品物を売った事は事実なれどその品がカルラ嬢の物ということを知らなかった可能性があり、減刑を求めます。」

「弁護人、知らなかったらカルラさんの物に触れて良いと?貴殿はそう主張するのだな?」

マックスは殺意に満ちた目を弁護士に向ける。


「異議を取り消します、おっしゃるとおり知らない事自体が罪と考えます。」

弁護士はアッサリと主張を下げる。

「弁護士さん、もっと頑張れよ!あの裁判官頭がおかしいだろ!!」

「モトキさん口を慎みなさい、あの方は国の英雄であり、相手が上位貴族でも公平な裁判をすることで有名な方だ、あの方がここまで言うのだからモトキさんの犯した罪は私が想像もつかないほど重いのでしょう。

残念ですが私が弁護出来るのはここまでのようです。」


「それでも弁護士か!無実な人間に罪がきせられるのだぞ!もっと戦えよ!戦ってくれよ!」

モトキが叫ぶも弁護士はモトキを見ようともしない。

弁護士はマックスの目から下手に弁護すれば自分の身すら危ういと感じていた。


「弁護人が罪を受け入れた為、この裁判は終了とする。」

「はっ!キサマさっさとこい。」

「ま、待て!頼む再審を要求する!別の裁判官で罪を裁いてくれ!」

モトキの叫びも虚しく、裁判は終了するのであった。

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