第481話 シリアに面会

「シリア、私だ、わかるかい?」

「ああ・・・ルクスさま・・・」

シリアは城にある塔に軟禁されている、ここは貴人を閉じ込めるために作られた場所だった。

シリアは訪ねてきたルクスに縋り付くように泣き始める。


「ルクスさま、何故私はこのような待遇を受けねばならないのですか?」

「シリア、それはヨシノブの子供達から船を奪おうとしたからだ、何故そんな真似をしたんだ?」

「それは彼らが私の領民達を害しようとしたからです。

ヨシノブ様の子供と言っても血は繋がっていない、ただの平民ではないですか。

そのような者に判断を任せるぐらいならビザ家の長女たる私が判断を下した方が皆を正しく導けたのです。」


「シリア、それは間違っている、ヨシノブは養子だと言えど、身内の為なら牙をむくだろう。」

「まぁ、そのような乱暴な方がルクスさまのご友人を名乗るなんて・・・」

「シリア、ヨシノブは理性的だし、どちらかというと善人だ、基本的に牙を向けたりするような奴じゃないんだ。」

「ですが、あの方は怪我をした程度でルクス様との約束を反故にするような方です、信じるに値しない方かと。」

「約束を反故?って、怪我ってどういうことだ!」

ルクスはシリアに詰め寄る。


「ルクスさま、どうなさったのですか?

約束とは住民を全員ルクスさまの御領地にお連れするという話です、それなのに一部の人しか連れ出せず、その上、食料を探していた善良な領民を処刑したり・・・」

「いや、それより怪我とはどういうことだ!」


「え、えーと、ティエラ連邦の方に行って刺されたと聞きましたわ、あのような蛮族の地に行くから怪我をするのです。」

「なっ!つまり、シリアはヨシノブが怪我をしている最中、子供達ともめていたのか・・・」

「ええ、ヨシノブ様が指揮を取られない以上、私が取るのが当然かと。」

ルクスは頭に手を置いた、ヨシノブが怪我をしている緊急事態に、それを利用してシリアが権力を握ろうとした、実際そこまでの気は無くとも、子供達からすれば同じだろう。

シリアが生きてこの場にいること自体が奇跡であり、子供達がルクスに気を遣った結果だと理解した。


「それでヨシノブの怪我はどうなんだ?」

「知りませんわ。」

「えっ?」

「ポーションを沢山集めていたようですが怪我の具合までは知りませんわ。

ですが、亡くなったと聞きませんでしたから、無事に治ったと思います。」

ポーションを大量に集めていたということは異常事態だ、手持ちの上級ポーションでは治らないほどの怪我をしていたのか・・・

ルクスは話の断片からヨシノブの怪我が軽いものではないの理解出来た。


「なぜ君はヨシノブの具合を知ろうとしなかったんだ・・・」

「それは、彼も平民あがりなのでしょう?ルクスさまのご友人とはお聞きしましたから、最低限の挨拶はさせてもらいましたが、それ以上の付き合いは少し・・・

それにルクスさまも彼の持つ船が大事なのでしょ?

あの船さえ手に入れれば、ルクスさまが彼に気を遣う必要もないかと。」

「君はヨシノブについてそう見ていたのか・・・」

「彼のようなマナーも出来ていない人間は、ルクスさまのご友人に相応しくありません、なるべく早いうちに関係を見直す必要があると思いますわ。」

ルクスと話しているうちに元気が出たきたのか、シリアは力強く話し始めていた。


「黙れ!君には失望したよ、領民を愛しむ事の出来る女性だと思っていたが、自分の支配下のものにしか愛しむ事の出来ない人だったとは!

まして、私の大事な友人を自分の利害だけで判断するなんて。」

「ルクスさま何を・・・」

「ヨシノブは国としても国賓として迎え入れる重要な人物だが、それ以上に私に取っては王子の立場を忘れる事の出来る対等な友人である。

残念だが私と君とでは価値観を共有することが出来ないようだ。

父が下した命令通り、婚約は破棄させてもらう。」

「ルクスさま、お待ちを!至らないところがございましたら直しますのでどうか婚約破棄はお許しを・・・」

シリアは再び涙を流しルクスにしがみつくが、ルクスは振り払う。


「・・・長年、婚約者だったんだ、ヨシノブに塔から出れるように頼んでみよう、以後は息災に暮らすがいい。」

ルクスはシリアに伝えるだけ伝えて塔をあとにする。


「お待ちをルクスさま!どうかお戻りください!」

塔からシリアの叫ぶ声が響いていた・・・

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