第467話 輸送(空輸)

「手枷足枷など必要ないはずです、外してください。これだと罪人のようではないですか!」

シリアはここまで来ても自身の立場をわきまえずに騒いでいた。


「罪人が何を言ってる。」

しかし、エーリヒの視線は冷たい。

「たとえそうだとしても、貴族としての扱いがあるはずです。」

「あーボクは平民ですから貴族の礼儀は知らないんですよ。」

「なっ!」

「ですので、扱いの保証はしません、あと命もね。」

エーリヒは傷が治ったばかりのヨシノブに気苦労をかけさせているシリア達に敵意を持っていた。

シリア達を貨物室に転がし、輸送機を離陸させる、高度が上がり程無くしたところで・・・


「皆さんの輸送を任されたエーリヒです。

皆さんはデーニッツの船でイロイロやらかしたのは聞いています、しかし、私は甘くないつもりです。足元に落ちているロープをしっかり持ち、後方をご覧ください。」

エーリヒは少し後部ハッチを開け、機体少し上昇させて地面が見えるようにする。

「「「ヒィィ!なんだ、ここはどこなんだ!!」」」

全員が混乱したところで、平行飛行に戻す。


「ここは空の上です、皆さんが騒がしかったら後ろからまとめて投棄しますのでご理解ください。

助かりたい人はいかなる時もロープをしっかり握っておくことをおすすめします。」


側近の一人が騒ぎ始めた。

「何だと!私達はともかくシリア様にも地面に座ってロープを持てというのか!」

「そう言ってます。まあ、持たなくても構いませんよ、落ちても知りませんから。」

「なっ!そんな理不尽が許されていいと思っているのか!」

側近は立ち上がり興奮して叫ぶが後部ハッチが大きく開き、機首が上がる。

「なっ、あっ!ま、まて、うわぁぁぁぁぁ!」

立ち上がり叫んでいた男はロープを掴みそこね、後部ハッチから出ていく事になる。

そして、再び閉まる。


「これで静かになりましたね、さて他に質問はありますか?」

「あ、あの、先程の方はどうなったのでしょうか・・・」

食料を奪いに行こうとしていた男の妻が恐る恐る質問する。

「空から落ちました。」

「えっ?」

「当機に搭乗資格が無いと判断しました、くれぐれも騒がないように、あと誰かが騒ぎ出したらロープを持つようにしたほうがいいかもしれませんね。」

エーリヒは坦々と説明する。


「我が領民を勝手に処刑して、許されると思ってますか!」

「まだ懲りないのか?大人しくしてればいい気になりやがって、おとうさんが優しいからって勘違いするな、俺は、いや俺達はお前の命を奪いたくて仕方ないんだからな、是非とも処分する理由をくれることを期待しているよ。」

シリアは恐怖を感じる。

そして、それは一緒に機体に乗っている者達も同じだった。


全員がロープをしっかりと持ち、黙り込む。

しかし、時間が立つとこの状況に不満を言うものも現れて・・・

「くそっ、いつまでこんな事をしていないといけないんだ。」

「ちょっと、静かにしてよ、もしまた後ろが開いたらどうするの。」

「少しぐらい大丈夫だって、話すなとは言ってなかっただろ。

しかし、あのヨシノブとか言うやつには騙されたな、何が危害は無いだ、思いっきり害があるじゃねぇか。

ありゃ詐欺師だな、胡散臭い顔してたしな。」

男がそういった途端、後部ハッチが開き、機首も今までに無いぐらいの角度に上がる。


「きゃぁぁぁぁ!!」

「誰も騒いで無いじゃないか!」

「おとうさんの悪口は別です、全員死ね。」

「言ってない!私達は言ってません、言ったのはこの男よ!」

「いや、俺は・・・」

「お前さっさと落ちろよ!」

男の隣にいた者が男を蹴る。

「や、やめろ!止めてくれ、落ちる、落ちる!」

「さっさと落ちろ!」

男は蹴られながらも必死にロープにしがみつく。

その横で・・・


少女がロープを離しそうになっていた。

彼女は親が食料を盗みに入ったせいで輸送機に乗ることになっていた。

「もうだめ、掴んでいられない。」

「がんばれ!」

「だめ、お父さん、先に行く親不幸を許して・・・」

「ダメだ、ルージュ、手を離すな。」

「むりだよ・・・もう手に力が入らない。ごめんなさい・・・・」


少女がロープから手が離れるが、後部ハッチに吸い込まれる前に機体は下向きになり、ハッチも閉まる。

「た、たすかったの・・・」

「ルージュ!!よかった。」

父親はギュッと抱きしめる。

すると随行していたオットーがやって来る

「罪無き少女を殺すのはしのびないので、救済処置を致します。」

オットーは少女の腰にロープを巻き付け、命綱を装着させる。

「あ、ありがとう。」

少女は命を助けられた為か頬を赤らめオットーに熱い視線をおくる。


「礼にはおよびません、助けたのも僕らの都合ですので、ですが・・・」

オットーはヨシノブの悪口を言っていた者を引きずって後部に向かう。

「な、何をする気だ、や、やめろ!やめてくれよ。」

男は嫌な予感しかしない、オットーが近づくとハッチは開き、男を捨てる。

「ぎゃぁぁぁぁぁ・・・」

男の悲鳴が遠ざかるとともにハッチは閉まる。


「おとうさんの悪口を言うときは気をつけてくださいね。許すつもりはありませんから。」

全員黙って首を縦に振るだけだった。

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