第266話 壊れた勇者
女を殺した後、タクミは汚れた服を着替え、歩き出す。
道中、自身について考える。
一体どうなっている、たしかに剣で刺された筈だったが既に傷は治っている。
しかし、それ以来頭の中にもう一人自分がいて、破壊衝動がおさまらない、今でも意味なく銃を撃ちまくりたいぐらいだ
「そこの人、どうなさった?顔色が悪いが?」
道をフラフラ歩くタクミに馬車に乗った男が声をかけてくる。
「えっ、いや、どうも頭が痛くて・・・」
「それは道中大変でしょう、この先のレードの町で良ければお送りしましょうか?」
「いいんですか?」
「困った時はお互いさまです。さあ、馬車にどうぞ、商品が積んでありますので少々手狭ですが、よろしければ横になっていてください。」
男はメルクといい、物資の輸送をしている最中だった。
「メルクさん、これは何を運んでいるのですか?」
「これですか?これは最近キチという町で売り出されている、品物ですよ、火をつけるライタに、インスタントという食べ物、まあ、他も雑貨が色々ですね。」
聞き慣れた言葉と見慣れた商品にタクミは驚く。
「これって、日本の商品じゃ・・・」
「タクミさんは知ってるんですか?
かなり珍しく、便利な商品なんですよ、これをレードの町のルーカス商店に運ぶのが私の仕事なんです。」
「なんで日本の商品が異世界に?」
『そこに敵がいる。暫し身体を借りる。』
何処からともなく声が聞こえる。
「メルクさん、何か言いましたか?」
「いえ?何も言ってませんが?」
「でも、さっき声が・・・」
「大丈夫ですか?」
メルクは馬車を止め、タクミに近付くが・・・
バン!
タクミに頭を撃ち抜かれる。
「敵、敵、敵!排除、排除、排除!」
タクミは抑えきれない破壊衝動に身体を乗っ取られる。
『えっ?俺がやったのか?
メルクさんを?
なんで、あんなにいい人なのに、何故?』
タクミは困惑するが身体を動かせない。
それどころか勝手に動き出す。
馬車を動かし、海の方に向う。そして、海に出ると武蔵を喚び出す。
『おお!武蔵!』
タクミは少し感動するが!身体が勝手に動いている事にすぐに恐怖を感じる。
武蔵は場所を知っているかのように進路を決めて出航する。
一日船が進むと、自衛隊の船が見えてくる。
向こうは対話を求めて来ているようだった。
『助けて!』
タクミの声にならない声を出すが、タクミの意識とは別に連合艦隊を一気に喚び出す。
身体の中から何かが、そう流れ出てはいけないと本能が告げる何かが大量に流れ出るような感じがする。
『気持ち悪い、止めてくれ!いやだ!』
どれだけ思っても呼び出すのを止めない。
気がつくと大量の船で海を埋め尽くしていた。
それと同時に全艦の主砲が自衛艦に向く。
『えっ?攻撃するのか?
ま、待て!』
俺が念じても、攻撃が止まることはない。
ゼロ戦が飛び立ち、頭の中に大量の情報か流れ込んでくる。
『いたい!止めてくれ!頭が割れる、やめろ!!』
タクミの頭で出来る処理能力を超え、部隊を動かす。
タクミの目や耳から血が流れ出す。
既に限界を越えたようだ、大きな爆発音と共にタクミは意識を失う。
気がつくと、自衛艦が轟沈する様子だった。
『俺がやったのか・・・』
周囲を見ると武蔵の艦橋だった筈なのに、周囲に何も無く、俺は全裸になっていた。
『どういう状況だ?』
俺が困惑する中、身体は船を乗り換え、近くの町に向かい、砲撃を開始する。
更地にするかのように爆撃機を使用しての爆撃、各艦の主砲による攻撃で施設を破壊していく。
まるで八つ当たりをする子供のように徹底的に破壊し尽くすのだった。
タクミの意識の元に身体が動かせるようになったのは町を破壊し尽くした後だった・・・
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