第257話 タケフミの最期

シモが去った後、一人の鬼が降臨する。

「さて、ワシの可愛い孫を泣かせたんじゃ、覚悟はよいのぅ・・・」

「ま、待て、ジジイ!俺を殺したら、ヨシノブに怒られるぞ!」


アキラは不思議そうにタケフミを見る。

「だからなんじゃ?ワシは別にヨシノブに怒られようと関係ない。」

「い、いや、だってヨシノブは代表だろ?あいつが困る事になるぞ!」

「だからどうした?若いのじゃから苦労ぐらいせねばな。」


「ま、待て!マイの兄だぞ!マイが悲しむのがわからないのか?」

「なぜ、ワシがマイとやらの気持ちを考えねばならん?」

「えっ?一緒に基地にいただろ?」

「おったのぅ、じゃが別段関係は無いしのぅ。」

アキラは子供達を訓練をしていた為、日本人グループとの関わり合いは少なかった。

その為、タケフミがマイを引き合いに出しても何の影響もなかった。


「そもそも、誰がお主の死を報告するのじゃ?」

「えっ?」

「お主等親子はここで死ぬのじゃからな。」

「わ、私もですか!」

カヤの外と思っていたユウキが悲鳴に似た声を上げる。

「当然じゃ、ヨシノブが知ってシモちゃんが怒られたら可哀想ではないか。

お主達は行方不明になるのだ。」

「ま、待ってください!私は関係ない、絶対に話しませんから!」

「世の中に絶対はない、それにのぅ、こんな息子を育てたお主を信用する程、ワシは耄碌しておらん。」

ユウキはアキラの殺気を感じてガタガタ震えだす。


「待ってくれ!さっきの言葉は失言だった!謝る、あやまるよ!だから殺すなんて言わないでくれ!」

タケフミは恥も外聞も捨てて頭を地面に擦りつけ謝罪をするが・・・

「もう良いか?ワシも動物園に向かうでな。」

タケフミの必死の思いもアキラの心には届かない。


「待ってくれ!」

「この世の摂理から消えるがよい。目覚めよ魂喰」

アキラはタケフミに刀を向けると刀が巨大に変形して口が現れる。


「な、何だこれは!」

「ワシの刀はのぅ、たとえ神であろうと喰らい消化するのじゃ、肉体のみならず魂までもな。

普段なら刀として斬るだけじゃが、お主は許せんからのぅ、生きたまま刀に喰われるがよい。」

「や、やめてくれ、来るな!来ないでくれ!」

アキラの持つ刀から黒い手のような物が多数現れタケフミを捕まえ、口に持っていく。


「言い忘れておった、魂喰はゆっくり消化するが、その間、意識はあるようじゃぞ。

己がした罪を後悔する時間とするがよい。」

「や、やめてくれ!俺はセレブになったんだ!俺の人生はこれからなんだよ!離せ!離せよ!」

タケフミは必死に暴れるも刀から出た手はタケフミを口に入れていく。

「お、親父、助けてくれ!」

タケフミは必死に左手を伸ばし、父親に助けを求めるが・・・


「く、くるな!俺は喰われて死ぬの何て嫌だ!」

腰の抜けているユウキはタケフミから逃れようと這いずる。

「おやじ!俺を見捨てるなよ!助けてくれ!」

タケフミは伸ばした手でユウキの足を掴む。

「離せ!」

ユウキは必死にタケフミの手を蹴り、離そうとする。

「親父、やめろ!蹴るなよ!さっさと引っ張れ!」

タケフミは必死にユウキの足を掴むが、ユウキの抵抗にあい、手を離される。

それが引き金となり、タケフミは刀に吸い込まれていく。

「おやじ!てめぇ、よくも・・・おれを・・むすこを見殺しにしやがって!

おぼえてろよ・・・」

タケフミはユウキに恨み言を述べながら刀に吸われていった。


「見苦しい親子じゃのう。」

「ああ、私はなんて事を・・・」

ユウキは自らがタケフミを捨てた事を嘆く・・・

「次はお主の番じゃな。」

アキラはユウキに近付く。

「ひぃぃぃぃ!!ま、待ってください!私はお孫さんを泣かせたりしてません。

それにヨシノブさんと面識のある私が死んだら、シモさんの行動が伝わるのではないですか!

どうか罪は息子だけで!お願いします。」

「そうじゃのう・・・」

アキラは少し考えるそぶりを見せる。

それにユウキが希望を見出す。

「必ず、お孫さんの役にたってみせますから!」

ユウキはここぞとばかりにアキラと交渉する。


「わかった、首だけで許してやろう。」

「クビ?」

「今から1時間動かずにいたらそのクビは落ちない。

それを守れるなら、お主が信用出来る者として命は助けてやろう。

だが、その後、孫を泣かす事があれば刀に喰わせるぞ。」

「わ、わかりました!1時間ですね。」

「うむ、まずは座れ。」

ユウキは1時間の事も考え、あぐらをかいて座る。そして、ネクタイで斬られた腕を縛り止血をする。

「始めじゃ。」

アキラは目にも見えない早さでクビを斬る。


しかし、ユウキが絶命する事はなかった。

あまりの断面の鋭さに繋がったままの状態で維持されていた。

「くれぐれも動かぬ事だな。」

アキラはそう言い残すと去っていった。


アキラが去って10分後、救急隊がやってくる。

「大丈夫ですか!すぐに病院にお連れします!」

「ま、待ってくれ!今、動いたら首が落ちると言われているんだ!」

「何を言ってるのですか?そんな事がある筈ないでしょう、それより腕の傷が酷い、急いでつけないと元に戻らなくなりますよ。」

「さ、触るな!頼む!あと50分待ってくれ!」

ユウキが必死に訴えるも救急隊員は近付いてくる。

そこに先程逃げ出した警察官が様子を見に来た。

「お巡りさん、そこの救急隊員を止めてくれ!俺は今アキラに斬られているんだ、動かされると死んでしまう!」

言葉を聞いた警察官は救急隊員を静止する。


「何をするんだ、そこの人が死んでもいいのか!」

「待ってください、状況を確認します。いいですかそれまで触らないでください。」

一先ず、救急隊員を引き止める、ユウキに事情をたずねると普通では信じられない事を話していた。


「わかりました、救急隊員の方々、あと40分お待ちください。

ユウキさんもそれでいいですか?」

「頼む、それでいい。助かったよ・・・」


それから40分たってから病気に運び込まれる、その頃には出血でかなり危なくなっていたが何とか一命は取り留めたのだった。


後日・・・

「ユウキさんの言うとおりですね、首に一度斬れた跡がある、よく生きていましたね。」

診察をした医者が驚いていた。

アキラの言葉通り首が斬れていたのである。


「あ、あぶなかった・・・」

もし動いていたらどうなった事やら・・・

ユウキは恐怖に震えるのであった。

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