第211話 魔王の悲劇

「なんじゃここは?」

アキラは周囲を見回す。

「血の匂いがするのぅ・・・」

アキラは普段から腰に差している愛刀に手をやる。


アキラの姿を確認したリッターは興奮して叫び出す・・・

「あれが勇者アキラですか!待ちわびた!待ちわびたですぞ!」

「リッターどうしたのだ?」

ツバサはいきなり興奮したリッターに質問を投げ掛ける。


「我が一族の悲願、アキラに剣で勝つ!その為に我が一族は長い年月をかけ、剣技を磨いてきたのです!」

「お主の一族の悲願だと?」

「ええ、かつて魔王を倒した後、勇者に剣で挑み敗れ、尊厳を斬られた初代エーロイの恨み、今果たしてくれる!」

リッターは刀を持ちアキラに向かって行った。


「アーロンよ、リッターはどうしたのだ?」

「リッターの一族は恨みの為に生きてきた、その為に魔王を復活させるのも厭わないぐらいに。」

「お主は我が魔王と知っておるのか?」

「知っている、私は魔王が使う魔法に興味がある。

その為に魔王復活に協力した。」


「ほう、なら教えを受けると言うことか?」

「違う、私が欲しいのは魔王の心臓。」

「なに?」

「心臓があれば魔法を使える、これは魔族で実験済み。

さあ、魔王、心臓を渡して。」

「誰が・・・何、身体が動かん!」


「くすっ、さっきの魔法に仕掛けがあった。魔力を出すと心臓付近の魔力経路を一時的に遮断する。

さあ、大人しく心臓を渡せ・・・」

アーロンは魔王と直接戦うと勝てない可能性を考えていた。その為に罠を用意していたのであった。


「や、やめろ!」

アーロンの手が胸に沈み出す。

「や、止めてくれ!」

「大人しくしてればすぐ終わる、痛みはないはず。」

「いやだ!死にたくない!」

「大丈夫、心臓がなくなっても意識があるようにしてあげる。

ただし、私に歯向かえないけど。」

「なっ!そんな事を認められるか!」

「認めるも何もそうなる、そして、この悲劇の責任をとって死んでもらう。」

「やめろー!」


ツバサ心臓は引き抜かれた。

「し、死んでない?」

「だから言った・・・でも、魔法は使えない。」

「くそっ!」

ツバサは剣をアーロンに向けようとするが身体が動かなくなる。


「私に逆らえない、貴方はこの城に滞在して次の遠征軍に討たれるの。」

「い、いやだ!助けてくれ!」

魔王の意識は心臓を取られてから消えていた。

今あるのはツバサ本人の意識だった。


「私は先に姿を消す、勇者アキラがリッターに勝ったら厄介になる。」

そう言葉を残してアーロンは姿を消した。


残されたのは心臓を奪われ、城から出れなくなったツバサだけだった・・・




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