第207話 氷の海
出港してから二週間過ぎた頃、海には氷が見えつつあった。
「もう少しだな。」
艦橋でショウと話していた。
「はい、氷が増えてきましたね、大丈夫なのでしょうか?」
「俺も砕氷船は初めて乗るけど、これで南極とかに行ってるぐらいだから大丈夫だと思う。」
氷が張り始め、しらせは氷の上に乗りながら少しずつ割って進む。
「豪快なものだよな。」
「ええ、見事です。日本にいたら見れない光景ですね。」
「確かにね、普通は見えないな。」
「タケフミは日本に帰ってやっていけると思いますか?」
日本の話を考えた為か、ショウはタケフミについて聞いてくる。
「わからん、一応自衛隊の山本さんには帰国できるかも知れないとは伝えたけど、経験を積まずに歳をとっているからね、親御さんの理解と協力が無いと難しいだろう。」
「タケフミは親と話しているんですか?」
「いや、電話をしようとしないんだ。マイちゃんも話すべきと薦めているんだが、まあ言いにくいよな。」
「ええ、それはわかる気がします・・・」
「一応、俺の口からは伝えてはいるんだが・・・」
俺はタケフミの父、ユウキに手足の治療と引き換えに歳をとってしまった事を伝えていた。
最初は信じて貰えなかったが、真剣に何度か話す事で信じてはくれたが返ってきたのは罵声だった。
俺はどうしようもなかった事を伝え、本人の意志で行われた事を伝え、それでも罵声が止まなかったのでそれ以後は話していなかった。
「お察しします・・・」
ショウは大変だった事を理解してくれていた。
「ありがとう、まあ、タケフミくんは向こうの親御さんに任せよう。
この世界にいたらいつか何処かで死んでしまうだろう。」
「そうですね。」
「しかし、君達の帰国の手段を探さないとな、かつての勇者の帰還方法も調べきれてないし・・・」
「あっ、その事ですが、昨日ルーカス商会の報告でローラン王国が渡してきた宝玉が帰還の宝珠という事が確認できたとの事です。」
「えっ!それは本当なの?」
「はい、知らせが遅れてすみません。」
「いや、それはいいんだけど、ならそれに力を貯めれば。」
「一人か二人は帰れるかも知れませんよね。」
「夢が広がるな、次は誰を帰すか。」
「俺としてはマイちゃん、カエデちゃん、ルナちゃん辺りを薦めたいですね。」
「君達はいいのか?二人帰れるならチャンスじゃないのか?」
「俺は最後でいいです。ミキには悪いと思いますが、女の子より先には帰れませんよ。」
「ショウはいい漢だな、つくづくタケフミくんやツバサくんと友達だった事が信じられない。」
「俺もアイツらがあんな奴とは知りませんでした。
日本にいる時は気のいい奴だったのですが・・・」
「こっちに来て、本性が出たのか・・・
命がかかる分、ストレスが大きかったのかもね。」
「残念な話ですね・・・」
ショウは顔色を暗くしていた。
「元気を出すんだ、俺としてはショウくんのお陰でだいぶ助かっている。
それに3ヶ月、タケフミの面倒頼むぞ。」
「ちょ、俺が見るんですか?」
「俺は基地を作ったら1度帰還するよ、向こうの補充もあるし、ツバサくんやルールの事もある、なるべく離れたくないんだ。」
「そうですよね、言われてみれば副官の俺やミキまで来ている以上、戦力は減ってますね。」
「そういうこと、サリナだけに任せるのは少し大変だと思うからね。」
「わかりました、俺とミキで3ヶ月管理します。」
「頼んだよ、ショウくんなら心配してないが、タケフミくんの扱いは気をつけてくれ。
何するかわからないからね。」
「わかってます、見張りを立てて対処します。」
氷を割り、ゆっくり進むしらせの前に目的地の大地が見えてくるのであった・・・
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