第84話 ツバサ

ツバサとユカリは互いに協力して教会の権力を握る事に成功していた。


元々聖女は形だけとはいえ、大司教より上の存在とされており、急遽不在になった大司教の代わりをつとめるとの名目で教会トップとなった、

これには地震の為に司教にも多数の犠牲者が出ており、大混乱となっていた事もあり、上手くつけこむ形で君臨する事となった。


トップになったユカリは自分に従順な者を重用し、権力基盤を作る。

そして、ツバサは勇者の力を使い反対派の粛清も行っていた。

教会は短期間で二人に乗っ取られたのである。


そんな二人は王と共に王都から脱出していたが、王の帰還と共に戻ってきた。

オープン馬車に乗り、周囲に愛想を振り撒く、

この時点で住人達にとって勇者と聖女の存在は自分達を助けてくれると信じており、歓迎していた。


そして、タケフミはツバサが目の前に来た時に声をかける。

「ツバサ!俺だよタケフミだぁ!」

必死に叫ぶタケフミの声はツバサ届いた。


「タケフミか!お前も来ていたのか、そいつは俺の友人だ通してやってくれ。」

ツバサは兵士に命じてタケフミを馬車に呼ぶ。


「ツバサ会いたかったよ。」

「タケフミ・・・腕はどうしたんだ?」

「この前の地震で・・・」

「そうか、苦労したんだな、それでお前がいるということはマイさんも来ているのか?」

「ああ、来ているよ。」

「そうか!何処にいるんだ?早く此処に呼んでくれよ!」

ツバサはキョロキョロと周囲を見回す。


「いや、今は別行動しているんだ、ひとまず俺がお前に会いに来たんだ。」

「そ、そうか・・・なら、早く此処に呼んであげたらいいよ、

何せ俺は勇者だからね、

マイさんに裕福な暮らしをさせてあげれるよ。」


「そうだな、手紙を書くよ。

マインズ国にも届くかな?」

「任せておけ!」

タケフミはツバサと一緒に大聖堂に入り、客人用の豪華な部屋を与えられる。


今までにないような贅沢な暮らしが出来た。

贅の尽くした料理、身の回りを世話してくれる美少女のシスター、


やはり、持つべきものは友だ。

ツバサに感謝しつつ、

タケフミは異世界に来て初めて幸せな気分を味わっていた。


何日か過ぎて、タケフミはマインズ王国にいる筈のマイに手紙を出す。

「マイ、お兄ちゃんはツバサの保護を受けて、セレブな生活が出来ているぞ。

やはり、持つべき者は友だよな。

お前もヨシノブなんて捨ててこっちで暮らそう。

ツバサもお前と会いたがっている。

この手紙が届いたら荷物を纏めて待ってるように。

すぐに迎えにいくからな。」

しかし、手紙が国から出される前にツバサから呼び出しをくらう。


「なんだよ、ツバサ?」

「なぁ、このヨシノブって誰?」

タケフミの手紙を見せながらツバサは冷たく話す、しかし、タケフミひツバサの冷たい声に気付かない。


「はぁ?お前、人の手紙を見るなよ。」

「いいから、答えろよ。」

ツバサが今まで見たこと無いような冷たい眼を俺に向けてくる。


「今、マイが世話になっている人だ。」

「へぇー男の世話になっているんだ?」


「ああ、俺が一緒に来いと言ったのも無視しやがってな、何が生活出来ないだよ!

くそっ、ガキの癖に色気好きやがって!

聞いてくれよツバサ、マイの奴、この前、泣きながらヨシノブの奴の胸に抱きついていたんだぜ。」

「へぇー、男に抱きついていたんだぁ・・・」


「そうだよ、中1の癖にマセやがって!

本当に恥ずかしい妹だ。」

タケフミは笑いながら話していたが、ツバサの眼は冷めきっていた。


「・・・もう、いいや。」

ツバサから冷たい声が出る。

それはタケフミも聞いたことが無いような声だった。


「ツバサ?」

「気安く呼ぶのは止めてくれるかな?」


「何を言っているんだよ?」

「オレ、他の男に抱かれた女に興味無いんだよねぇ~

日本と違って此処にいれば美少女食べ放題だし。


知ってる?シスターって処女ばかりなんだよ~

それなのに勇者の子種を求めて群がってくるんだ。

夢のハーレムが此処にあるんだよ。」


「ツバサ?」

「そりゃマイさんは俺の初恋相手だからね、食べたかったといえば食べたかったけど、もういいや。

・・・それなら、お前もいらないな。」


「何を言っているんだ!」

タケフミがツバサの肩を掴むが、ツバサは殴り飛ばす。

「触らないでくれるかな?

汚らわしいメス犬の兄風情が、勇者たる俺に触れていいわけないだろ?」

「ツバサ?」


「そもそも、お前と付き合っていたのもマイの兄というだけだし、あーあ無駄な時間を過ごしたよ、誰かこのゴミ捨てといて。」

「ツバサ!」

タケフミはあまりの言いように殴りかかるが・・・

ツバサに左腕を斬られる。


「ぐわぁぁぁ!」

「友人を殴ろうとするなんて酷い奴だなぁ~」

「痛い、いたいよぉ・・・」

ツバサは痛みで転がるタケフミの顔を踏む。


「たかだか、サッカーが上手いからってなんだ、俺を見下しやがって!」

転がるタケフミを蹴る。


「そ、んなことしてない・・・」

「いいや、したね!折角マイさんが試合を見に来ていたのに、よりにもよってマイさんの前で俺のミスを責めやがって!」

「してないよ・・・」

「お陰で、マイさんが振り向いてくれなかったじゃないか!」

ツバサはタケフミの腹を思い切り蹴る。


「がはぁ!や、やめてくれ・・・・」

「そうか、痛いか、それが俺の心の痛みだよ、

おい、コイツを牢にいれておけ、ポーションはかけておけよ。

簡単に死なれたら面白く無いからな。」

タケフミは地下牢に入れられる。


「腕が・・・俺の腕がぁ・・・」

牢から悲しみにくれる声が響いていた。


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